武力によらない対ロシア経済制裁の絶大な効能

ロシアのウクライナ軍事侵攻を目の当たりにしながら、最強軍事大国・米国を率いるバイデン政権はウクライナへ派兵しないと公言しています。ピーク時に9万人もの兵士を派遣していた米国は、アフガニスタン撤退に20年の歳月を費やしました。ベトナム戦争以来、度重なる介入失敗の歴史を振り返れば、バイデン政権が武力介入に躊躇するのも無理はありません。一方、バイデン政権が決断したアフガン撤退を見て、プーチン大統領が無慈悲にもウクライナ攻撃を決断したのは明らかでしょう。しかし、米国とロシアが撃ち合いを始めれば、第三次世界大戦の導火線に火をつけることにもなりかねません。ここは狂気の独裁者プーチン大統領に対し、バイデン大統領においては努めて冷静に対処して欲しいものです。トランプ前大統領は「自分が大統領であればウクライナ侵攻は起きなかった」と述べているようですが、相手がトランプだったらプーチン大統領が怯んだ可能性も否定できません。歴史にIFはありませんが、意表をついた仮説かも知れません。

今回、武力制裁に代わる対ロシア経済制裁のなかで最も注目を浴びているのが、ロシアの銀行団を「SWIFT(国際銀行間通信協会)」から排除したことです。3月12日からロシアの第2位のVTBバンクをはじめ7つの大手銀行が「SWIFT」から締め出されてしまいました。決済通貨に占める米ドルの割合は40%、次いでユーロが37%ですから、ロシア企業は外国との貿易決済ができなくなり、ロシア経済は大打撃を被ることになります。最大手の露ズベルバンクが締め出されていないのは、欧州のエネルギー取引を仲介する役割を担っているからでしょうか。一方、可哀想なのはロシア企業と取引をしている外国企業です。例えば、ロシアに中古車を販売している日本企業ならば、当面、売却代金(通常米ドル建て)を回収できなくなり、資金繰りに窮することになります。ロシアに生産拠点を有するJT三井物産コマツなどはロシア関連銘柄として売り上げへの影響を取り沙汰されています。消費関連のマクドナルドやユニクロでさえ、国際世論に屈して、ロシアでの営業を休止。ロシア国民はとんだトバッチリを受けた格好です。問題は国内消費にとどまらず海外にいるロシア人にも波及していることです。タイ・プーケットに滞在しているロシア人観光客が米VISAやマスターカードがロシア業務を停止したために、宿泊費や飲食費を支払えず、格安宿泊施設に移動しているそうです。これは、ルーブルの交換価値急落がもたらした災厄の一例に過ぎません。タイ・ロシア間の航空便も制限され、現地で立ち往生とはまさに踏んだり蹴ったりです。

このように対ロシア経済制裁は副作用も大きいだけに、ロシアをじわじわと追い詰める効果大だと言えます。注視すべきはロシアを支持する中国の動向です。中国はかねてから米国による金融制裁の切り札「SWIFT」を警戒しており、2015年にこれに代わる人民元の国際銀行間決済システム(「CIPS」)を導入したものの、「SWIFT」抜きではワークせず、有効な対抗策にはなっていません。

ロシアや中国がどんなに足掻いてみせても、基軸通貨米ドルを武器に経済戦争を制するのは米国なのです。ロシアの資産凍結を契機に、中国をはじめ米国と距離を置く国々が米国債保有を減らしたとしても、米ドルの優位は揺るがないと思うのです。一方、次々と償還期限が到来するドル建てロシア国債(3月分7.32億米ドル、4月分21.29億米ドル)は、外貨不足のため、ルーブル払いされる公算が高そうです。これはテクニカル・デフォルトに該当しますので、ロシア国債の対外信用力低下は必定です。市場ではCDSの売り手であるピムコの支払い能力に疑心暗鬼が芽生えているようです。USD/RUBの過去1年のチャート(上)が示すように、露ルーブルは米ドルに対して50%以上下落しています。万一、ロシア国債のデフォルトイベント認定がなされれば、ルーブル安にさらに拍車がかかり、国内での急激な物価上昇は避けられません。国民から盤石の指示を取り付けていると言われるプーチン大統領のポジションは果たしていつまで安泰なのでしょうか。