<実質実効為替レート>から読み解く円の実質購買力~<ビッグマック指数>は主要10か国中最低水準~

1月21日付け日経朝刊に掲載された円の実質購買力に関する記事はかなりショッキングな内容でした。<円通貨の実質購買力、50年前の水準に後退>という見出しは相当なインパクトだったと思います。日経新聞の中心的購読者であるビジネスマンでさえ、半信半疑だったのではないでしょうか。

早速、円の実質的な購買力を表す<実質実効為替レート>推移を確認してみると、下のチャートからも明らかなように、2021年11月の67.79という数字は1972年8月と同水準だということが分かります。各月次ドル円平均レートは301.16円と114.01円でした。50年間で62%も円高が進んでいるのに、<実質実効為替レート>は1995年4月の150台をピークにダダ下がり状態にあることが一目瞭然です。私たちは、円高によって円の実質的通貨価値が上がったような錯覚に陥っていただけなのです。その間、海外では物価上昇が顕著で50%程度の為替変動でも吸収できなかったことになります。20年以上、日本の実質賃金が殆ど上昇してこなかったため、黒田日銀が目標に掲げる物価上昇率2%も未達のまま。よくよく考えてみれば当然のことです。日本のディスインフレは明らかに賃金上昇停滞によるものです。

英・経済誌エコノミスト」が毎年算出する<ビッグマック指数 (Big Mac Index)>を見るとよりイメージしやすいかも知れません。マクドナルドの定番商品のひとつビッグマックは、日本では390円(税込)、米国では5.65米ドル(114円換算=644円)で販売されています。日本ではビッグマックが安く買えるからいいと考えるのは早計極まる判断です。1.65倍に達する価格差は、日本経済が成長していない証左に他なりません。1米ドル69円まで円高が進行しないと、米国では円換算390円でビッグマックは買えない計算です。90年にチューリッヒ駐在中、ビッグマックセットを購入したとき日本円で3000円以上した記憶があります。スイスの物価が頗る高いことを肌で感じました。一方、翌年米国・フロリダを訪れたとき、ハンバーガーが60円前後で販売されており、さすがファストフード大国と感心したものです。

ビッグマック指数>は、ビッグマック1個を作るのに要するコスト、即ち原材料費、店舗リース料、光熱費、従業員の賃金等が反映された価格を国際的に比較するための指標ですから、総合的な購買力を比較するにはもってこいなのです。

昨年秋から日常必需品の値上げラッシュが続いています。原油価格の急騰が引き金になっているように見えますが、加速する価格転嫁の背景にはもっと深刻な問題が横たわっているように思えます。仮に原油価格上昇が一服したとして、物価上昇圧力は減じていくのでしょうか。岸田政権が推し進めようとする賃上げ税制は場当たり的な政策に過ぎないため、企業はさらなるコスト転嫁を始めるに違いありません。家計の物価上昇許容力はますます低下し追い詰められていくでしょう。イノベーションなくして日本が成長軌道を取り戻せるはずはありません。日本の未来はかぎりなく昏い、<実質実効為替レート>の推移は日本経済のさらなる低迷を予見しているように思えてなりません。