山岳コミックの金字塔『岳 完全版』全9巻を大人買い

先月下旬、北アルプスに遠征したとき、宿泊した穂高岳山荘(注)のラウンジ書棚に山岳コミックの金字塔『岳』全18巻が収まっていることに気づきました。前泊の徳澤園のラウンジでも見かけました。コミック『岳』の舞台は北アルプス穂高連峰、主人公の島崎三歩は北アルプスで寝泊まりしながら山岳遭難救助ボランティアを務める快男児です。

原作コミックは石塚真一さんの代表作、2011年に映画化され小栗旬(島崎三歩)と長澤まさみ(椎名久美|新人山岳救助隊員)が共演したことでも話題になりました。5年ぶりに晩秋の北アルプスを訪れ、コミック『岳』を通しで読んでみたくなって、今年6月に最終巻が刊行され完結したばかりの『岳 完全版』全9巻を大人買いしてしまいました。一般の書籍の「特装本」にあたる「完全版」というカテゴリーがコミックの世界にも存在することを初めて知りました。wikiによれば、再販形態のひとつで、通常版コミックより大きな判型で刊行され、カバーや紙質にこだわり、読者がより読みやすく、触り心地等も楽しめるように製本されているとあります。ネット注文してほどなく届いた『岳 完全版』は、A5判で表紙も細部までカラーで美しく再現されていました。

「完全版」は、1冊が優に400頁を超えるヴォリュームでずっしりとした読み応えがありました。心温まるエピソード満載で巻を措く能わず作品世界に引き込まれました。映画は原作コミックのごく一部を切り取って再構成したに過ぎません。主要な登場人物のなかで、長野県警山岳遭難救助隊の新米隊員が救助活動中に落石で大怪我を負い、三歩と幼馴染で高校山岳部同期の隊長野田が二重遭難の責任をとる形で北アルプスを去ると、ストーリーは俄かに急展開をみせます。本来あって然るべき背景説明を省いて結末へと急いだ点が惜しまれます。大団円の瑕瑾はさておき、雄大北アルプスを舞台に命懸けで遭難救助に従事する人々の人間模様を圧倒的なスケールで描いた原作コミックは、文字通り、山岳コミックの金字塔と呼ぶにふさわしいと思いました。下界で人間関係や仕事のストレスで行き詰った老若男女は、さまざまな悩みや痛みを抱えて山をめざします。

読者も、島崎三歩が発するこんな言葉に癒され勇気づけられるのです。

「君が生きていてくれた事に感動した!」
「よく、頑張った!」
「また、山へおいでよ!」

(注)『岳』第117歩|宮さんに登場する岳天山荘支配人のモデルは穂高岳山荘前支配人の宮田八郎(2018年、海難事故で死去)さんです。