2022年夏山登山(前篇)|「南アルプスの女王」・仙丈ケ岳は時計回りの周回コースが楽しい

遠征登山の成否は天気の良し悪しに左右されます。以前読んだ<PEAKS特別編集版>のなかの世界遺産・知床の最高峰<羅臼岳>を取り上げた頁にこんな言葉がありました。

<何度も登るには遠すぎる。その分、思いは募る。今年の夏こそ登ってみよう>

2年前、<羅臼岳>と<斜里岳>をセットでアタックしたときしみじみとそう思いました。山の女神は、遥々東京からやって来たソロ登山者をそれなりに歓迎してくれたように思います。滞在中のお天気はまずまずでしたから。

2022年夏山の締めくくりは南アルプス。そのアプローチは決して短くありません。東京からマイカー・路線バスと乗り継いで、登山口のある北沢峠まで約4時間かかります。山頭火の<分け入っても分け入っても青い山>の如です。今回は「南アルプスの女王」&「貴公子」こと<仙丈ヶ岳>と<甲斐駒ケ岳>を攻略する延べ14時間超の山行です。すでに南アルプス懐深く分け入っていますから、少々の悪天なら決行するしかありません。今回ばかりは、温泉・周辺観光といったプランBの選択余地がないのです。直前にヤマケイから届いた山頂天気予報では両日とも雨。内心、初日の<蓼科山>に続く嫌な流れを覚悟しました。

8月26日(金)、6:05発の始発バスに乗車し北沢峠に到着したのは6時45分。身支度を整えたらすぐに<仙丈ヶ岳>山頂めざして登山開始です。心配していたお天気はまさかの好転(朝ドラ「ちむどんどん」に影響されて「まさかや~!」と叫びそうになりました)、下がりっ放しだったテンションは一気にスーパーハイテンションにモードチェンジです。


                      笠が開く前のベニテングダケ

5合目の大滝ノ頭を左手に進み<小仙丈ヶ岳>経由で山頂をめざしました。ダケカンバ帯を抜け6合目まで来ると一気に視界が拓けます。進行方向左手には<北岳>、<間ノ岳>、その先には<富士山>が一望できます。晴天に恵まれた<小仙丈ヶ岳>から<仙丈ヶ岳>に至る稜線歩きは、この日一番のハイライトです。<仙丈ヶ岳>の標高は3033m、1丈は3.03mですから仙丈なのですね。山頂に3つのカールを抱く<仙丈ヶ岳>は「南アルプスの女王」にふさわしいたおやかな山容の持ち主でした。北アルプスに比べると浸食が進んでいない分、今も活発に造山活動を続ける南アルプスの山容は全体的に優しく感じられます。

仙丈ヶ岳>山頂の先を少し下れば仙丈小屋です。2013年に建て替えられた仙丈小屋の前の絶景テラス席でランチを頂くのが間違いなくベストプランです。背後には藪沢カールが迫り、テラス正面には翌日アタックする白い山肌の<甲斐駒ケ岳>が聳え、その先には<赤岳>から<蓼科山>へと連なる八ヶ岳連峰が見えます(写真では雲海が邪魔しています)。

馬の背ヒュッテからは、コーヒー休憩で意気投合した男女ふたりと合流し、お喋りを楽しみながら軽快に下山しました。「南アルプスの空気や空模様は秋の装いですね」と口にしたら、ふたりも頻りに頷いてくれました。5合目の大滝ノ頭分岐まではマイナスイオンたっぷりの渡渉ポイントも数カ所もあって、時計回りの周回コースは誠に興趣の尽きない展開でした。

南アルプス初日は、望外の好天に恵まれたことへ唯々感謝する1日でした。15時前には北沢峠「こもれび山荘」にチェックイン、いよいよ翌日は<甲斐駒ケ岳>にアタックです。