GoToトラベル~鹿児島篇:<薩摩富士八景>を選ぶ

2020年掉尾を締めくくる旅先は鹿児島。過去、九州は出張で福岡(+佐賀)へ二度、プロアマ・ゴルフ大会に招かれ一度熊本へ行ったことがある程度です。10月中旬、蝦夷富士こと羊蹄山に登るつもりで渡道したのですが、冠雪のため断念。それだけに、12月第1週の薩摩富士こと開聞岳の登山にかける思いはひとしおでした。ところが、予約してあった羽田発鹿児島空港行きANA早朝便(6:45発)が直前に欠航となり、鹿児島空港到着が2時間遅れになるというアクシデントに見舞われました。急遽、1泊2日のプランAをBに変更、登山を初日から2日目に振替えました。今年はコロナ禍の影響でしょうか、苦境に喘ぐ航空会社の都合による機材変更を度々経験しています。

登山の鉄則は「早出早着(はやではやちゃく)」。朝早く出発しておけば天候が急変したとしても余裕をもって行動できる上、万一、不測の事態が生じてもその日に対処が可能です。九州に六座ある百名山のひとつ開聞岳の山頂標高は924m。日帰り登山可能な山とはいえコースタイムは4時間30分ですから、午前中に登山開始が可能な2日目に順延した次第です。その結果、下山後、温泉に浸かってのんびりする至福の時を奪われ、知覧特攻会館経由、鹿児島空港へ向かう羽目になりました。これだけが心残りでした・・・開聞岳を眺めながら露天風呂に浸かりたかった・・・

初日はお天気に恵まれ、レンタカーで開聞岳周辺に点在する眺望自慢のビュースポットを訪ね、円錐形の美しい山容を撮影して回りました。北宋の「瀟湘八景」に倣って、<薩摩富士八景>を選んでみたので、是非、ご鑑賞下さい。百聞は一見に如かず、どこから見ても実に美しい独立峰です。まさに郷土富士にふさわしい名山だと感じ入りました。参考までに深田久弥の『日本百名山』から該当箇所を引用しておきます(末尾)。数十枚以上撮影した開聞岳の写真のなかでも、北斎の<富嶽三十六景>の代表作「神奈川沖浪裏」を意識して、番所鼻自然公園の岩礁まで進み撮影した前景に波頭を捉えた構図はなかなかの出来栄えだと自負しています。日本地図作成のため全国を実測した伊能忠敬が「天下の絶景」と絶賛したそうです。溶結凝灰岩の環状プール群が形成され、開聞岳と海が絶妙のコントラストを見せてくれます。「伊能忠敬先生絶賛の地」と書かれた石碑(鳩山一郎元総理筆)があります。

1.番所鼻自然公園(ばんどころばなしぜんこうえん)(開聞岳西側)

2.番所の鐘(開聞岳西側)

3.釜蓋神社(希望の岬)(開聞岳西側)

4.枚聞神社(薩摩一之宮)(開聞岳北側)

5.JR西大山駅(JR日本最南端の無人駅)(開聞岳西側)

6.長崎鼻(ながさきばな)(薩摩半島最南端より開聞岳東側)

7.池田湖(開聞岳北側)

8.瀬平自然公園(開聞岳西側)

初日は竜王戦の会場としても知られる「指宿白水館」に宿泊、初めて砂むし風呂を体験しました。翌朝、慌ただしく9時20分過ぎにチエックアウト(本音はもう少し寛いでいたかった!)、家人に登山口(2合目)までレンタカーで送ってもらって登山開始しました。下界の気温は14℃前後、曇天だったせいで、4本持参したペットボトルは2本で足りました。

5合目の展望デッキまで樹林帯を進み、再び視界が閉ざされ、7合目を過ぎると左手眼下に東シナ海が広がります。7.1合目の展望所からは硫黄島種子島屋久島等が望めるはずでしたが、生憎の曇天で叶いませんでした。視界不良の巨石の露出した山頂には思ったより大勢の登山者が陣取っていて、昼食のためのスペースを確保するのがやっとでした。身動きがとれなかったと言っておきましょう。直下の枚聞神社奥宮を参拝するゆとりもなく、30分足らずで下山を開始することに。前を行く軽装の女子2人組が危なかしそうだったので声を掛けると、初めての登山だといいます。聞けば、鹿児島市内からやってきた看護士さんでした。湿った岩場はかなり滑りやすく、スニーカーにジャージ姿で悪戦苦闘する彼女たちを見守りながら、一緒に下山しました。天候が崩れなくて何よりでした。14時半過ぎ、2合目登山口に戻り下山完了。郷土富士十傑のなかでも横綱格の開聞岳に登頂し、波乱の2020年の登り納めとなりました。

*『日本百名山』99 開聞岳(九二四米)より
「橘南谿の「名山論」を持ち出したのは、その中に開聞岳の入っていることが、わが意を得たからである。高さ千米にも足りない山が、他の諸山に伍してその名を誇っているのがほほえましかったからである。しかし高さこそ劣れ、ユニークな点では、この山のようなものは他にないだろう。これほど完璧な円錐形もなければ、全身を海中に乗りだした、これほど卓抜な構造もあるまい。名山としてあげるのに私は躊躇しない。」