『グリーンブック』から『パラサイト 半地下の家族』へ~アカデミー賞作品賞の最新トレンド~

2019年のアカデミー賞作品賞受賞作『グリーンブック』は、ジム・クロウ法下の1962年、アフリカ系アメリカ人ピアニストのドン・シャーリーに運転手として雇われたイタリア系移民トニーが、黒人差別の顕著な米中西部からディープサウスへのコンサートツアー中に遭遇する様々な出来事を通して、性格も考え方も水と油の雇主との間に友情を育んでいくというストーリーでした。留守宅に残してきた妻へ拙い手紙を認めている無学のトニーに、ドンがさりげなくアドバイス(入れ智慧)するシーンは最高に感動的でした。人種や育った環境がこれほど違うふたりでさえお互いに歩み寄って親交を結ぶことができるのだというメッセージが、ストレートに観る者に届く素晴らしい作品だったと思います。

2020年の第92回アカデミー賞作品賞は、初の外国映画作品『パラサイト 半地下の家族』が受賞。作品賞含め4部門でオスカーを獲得、本場米国のアカデミー会員を唸らせたポン・ジュノ監督の手腕に唯々脱帽するしかありません。監督やキャストには申し訳ないかぎりですが、最初は外国語映画賞受賞の聞き間違えかと思ったくらいです。コロナ禍の影響で劇場(2020年1月日本公開)に足を運べませんでしたが、今月7日、WOWOWが逸早く独占放送してくれたお蔭でようやく鑑賞できました。

評価の高い映画は概ねテンポがいいものです。本作も序盤から畳みかけるようなテンポで観客をぐいぐいと作品世界へ引き込んでくれます。舞台は韓国。半地下の狭い住まいに肩を寄せ合って暮らす4人家族(キム一家)が、ふとしたきっかけから、大金持ちパク一家の屋敷に次々と働き口を見つけます。長男と長女は相次いで屋敷主(IT会社社長)のふたりの子供の家庭教師となり、やがて貧しい家族が裕福な家族に仕掛けた「計画」(罠)が奏功し、両親も同じ屋敷の運転手と家政婦の職にありつきます。屋敷を長年支えてきた有能な家政婦はとうとう追い出されてしまいます。幸いなことにパク一家は4人がキム一家だということに気づきません。ただ、貧しいキム一家が否応なく放つ生活臭が少しずつ綻びを招くことになります。日々の生活費にさえ汲汲としていたキム一家がパク一家に寄食したあたりで、パラサイトというタイトルに合点がいくはずです。そこから、パク一家が貧困家族に翻弄される展開を予想したりすると、中盤からまんまと裏切られます。随所にちりばめられた伏線や貧富の差を象徴する半地下の居宅と高台のお屋敷を行ったり来たりするカメラワークにも注目です。

ネタバレを避けたいのでこれ以上ストーリーに深入りすることは控えますが、韓国語を字幕で追う違和感やストレスは一切ありませんでした。巧みなプロットで終盤まで息もつかせぬ展開が続きます。さしずめ後半はサスペンスと言っていいでしょう。アカデミー賞作品賞にふさわしい作品だと思いました。『グリーンブック』が半世紀前の熾烈な人種差別に材を得ながら、ユーモアを交えつつ埋め難い隔たりのあったふたりの間に絆が育まれる過程を丁寧に克明に描いたの対して、『パラサイト 半地下の家族』は現代の格差社会の実相をあぶりだし、富めるパク一家に欠けていて貧しいキム一家には確かに存在する紐帯に迫ります。現代社会に潜む問題を鮮やかに剔抉するという意味において、両作は響き合っているように思います。多様性(diversity)こそ、21世紀の映画が深堀すべき大きなテーマなのだと6000人を超えるアカデミー会員の過半が考えているのだとしたら、アメリカの映画界は偉大だと言うしかありません。