映画『ホテル・ムンバイ』のエンドロールに感涙

2008年11月26日夜、インド最大の都市ムンバイ(旧英語名称:ボンベイ)で同時多発テロが発生し、鉄道駅、病院、レストラン、ホテル等がパキスタン系テロリスト集団に襲撃されました。犯人グループの正体は今も不明のままです。映画『ホテル・ムンバイ』(2018年制作)の舞台は、実際に襲撃された五つ星ホテルのひとつ「タージマハル・ホテル」なのです。

一度、観た映画でしたが、amazon prime videoに登場したので迷わず再視聴しました。視聴者の評価は近年稀に見る満点5に近い高評価を獲得しています。同時期に制作されたクリント・イーストウッド監督の『15時17分、パリ行き』を遥かに凌ぐクオリティだと思います。テロ鎮圧まで丸3日を要し、死傷者が数百名に及んだムンバイ同時多発テロ事件の真相に迫るドキュメンタリー映画と見ることもできます。丹念な取材の成果が随所に窺われます。刻一刻と生命の危機が迫るホテルにあって、従業員は命懸けで宿泊客をテロリストから護ろうと奔走します。スイートルームに宿泊することになった新婚夫婦、赤ちゃん、ベビーシッターが事件に巻き込まれていきます。手に汗握る展開と比類なき臨場感に、観る者は只々圧倒されます。主人公のホテル従業員アルジュンを演じたのはデヴ・パテル。スラムドッグ$ミリオネア』(第81回アカデミー賞作品賞他受賞)でジャマールを演じ喝采を浴びた役者さんです。シーク教徒のアルジュンは、信仰の証であり高潔と勇気の象徴であるパグリー(ターバンの一種)を勤務中も頭に巻いたままです。髭面とパグリーに嫌悪感を覚える宿泊客には、愛する家族の写真を見せて理解を求めます。ところが、銃弾を受け瀕死の重傷を負った女性客を前にすると、アルジュンは意を決してパグリーを解き、包帯代わりに止血の用に供します。気高い人間性と無私の精神はアルジュンにとどまりません。

受付嬢ふたりは、銃を突きつけられ宿泊客に「救助隊が到着した」と偽の電話をかけるよう強要されますが、拒絶したため射殺されてしまいます。このホテルが我が家だと言う精勤35年のフロント係は、逃げ惑う宿泊客の盾となって追っ手の銃弾を浴び落命します。”Guest is God”という平時の誓いを非常時にあっても貫いた従業員は、まさに「ムンバイの戦士」でした。

銃撃戦のみならずテロリストの放火で多大の損害を被った「タージマハル・ホテル」は、修復に2年弱をかけ、2010年8月15日(インド独立記念日)に全面的な営業再開に漕ぎ着けます(写真はロイターより)。映画のエンドロールで、営業再開に歓喜する従業員やゲストの姿が流れます。ムンバイを訪ねる機会があったならば、ゲストを神様というより血の通った家族のように遇してくれる「タージマハル・ホテル」に宿泊したいものです。