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予備知識なしで観た地上波初放送『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』~潜在意識と顕在意識が交差する物語性に注目~

『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』が全国公開されたのは2020年10月16日。コロナ禍の影響から世界中で消費が低迷するなか、今年5月10日、同映画の2020年興行収入が全世界1位に輝きました。その日は奇しくも劇中主要キャラクター煉獄杏寿郎(れんごくきょうじゅろう)の誕生日と重なり話題になったので、「鬼滅の刃」の快進撃は記憶に強く焼き付けられました。劇場版はアカデミー賞(長編アニメ映画賞)を受賞したスタジオジブリの『千と千尋の神隠し』の国内歴代映画興行収入1位という金字塔を最速で更新しただけではなく、米国で公開された外国映画のオープニング興行成績歴代1位に輝くなど、「鬼滅の刃」は世界中で社会現象を巻き起こしたのです。

そんな怪物映画を公開から小一年経ってから地上波で視聴するなど、熱心な鬼滅ファンからすれば言語道断の暴挙といえるでしょう。リアルタイムで視聴したのがせめてもの罪滅ぼしでした。TL上では、<CMが長すぎる>とする苦情に対し<無賃乗車のくせに>とファンからお叱りが殺到するなど、なかなか微笑ましいバトルが繰り広げられていました。自分も含め多くの劇場見逃し組はずっと観たいと思っていたわけです。

公開以来、メディアの過熱報道のお蔭で、主人公竈門炭治郎(かまどたんじろう)一家が鬼に襲われ、6人兄弟のなかで唯一生き残った炭治郎が鬼と化して表情や言葉を喪ってしまった長女禰豆子(ねずこ)を護りながら、鬼を討伐する鬼殺隊に加わり修行に励むというストーリくらいは承知していました。しかし、それ以外の登場人物や鬼殺隊のなかの階級や鬼の序列など、劇場版を楽しむための予備知識ほぼ0で視聴に臨みました。

劇場版はそんな素人でさえ十分楽しめる内容でした。先ず、アニメ制作会社ufotableの創り出す圧倒的な映像美に唸らされました。新雪に残された足跡の窪み、光が乱反射して生まれる水面の移ろい等々、演出・作画・背景・3DCGすべてを内製化するufotableが日本アニメ界の最高到達点を見せつけてくれました。次に、夢は無意識下の欲求だとするフロイトの分析を忠実になぞりながら、過去の出来事の記憶と夢を劇的にシンクロさせた原作者の手腕と無限列車編を劇場版に選んだプロデューサーのセンスを誉めたい!

無限列車編で一番面白いと感じた点は、無限列車と合体した魘夢(えんむ)が人の心の内なる不安や迷いを利用して悪夢へ閉じ込めようとするところでした。魘夢は炭治郎の家族団欒の夢に小さな綻びを忍ばせ、結局、炭治郎は家族から(お前だけが生き残ったと)指弾される悪夢へ誘います。顕在意識と潜在意識が交差する精神世界を丁寧に描いて物語を紡ぐ原作者吾峠 呼世晴(ごとうげこよはる)さんの才能は非凡というしかありません。炭治郎は母性と対峙する夢、煉獄杏寿郎の場合は偉大なる父性ですから、その対比も見どころのひとつではないでしょうか。

柱・煉獄杏寿郎を倒した再生回復を繰り返す格上の上弦の鬼たちが存在するなか、潜在意識(無意識)と繋がる夢、即ち自分ではコントロールできないスピリッチュアルな領域(精神の核)に付け込もうとする魘夢は、謂わばエッジの効いたキャラクター、魘夢をヒールにしたのが劇場版の大手柄だと思います。魘夢と鬼殺隊のバトルが奥行のある物語になったのも、ひとえに魘夢の思うがままに夢をみせられる血鬼術にあるのではないでしょうか。