映画『マイ・インターン』再び〜次第に狭まるふたりの距離感に注目〜

Amazon Prime Videoで『マイ・インターン』(2015年公開・原題”The Intern”)を視聴。劇場公開時に観て以来、5年ぶりになります。メリハリがあってテンポの速い展開は観る者を飽きさせません。監督はロマンティック・コメディの傑作『恋愛適齢期』(2003年)を手掛けたナンシー・マイヤーズ。『恋愛適齢期』や『ホリディ』(2006年)同様、『マイ・インターン』の脚本も監督の手によるものです。

2006年公開の『プラダを着た悪魔』で一躍脚光を浴びたアン・ハサウェイとロバートデニーロが主役。急成長を遂げるファッション通販会社のCEO ジュールズをアン・ハサウェイが演じ、シニア・インターン募集に応じて入社してきたのが妻に先立たれた70歳のベン(ロバート・デニーロ)という設定です。ふたりの年齢差はなんと40歳。ジュールズは今をときめくIT世代の申し子、一方ベンは、電話帳会社で広告営業20年・印刷部門の責任者20年というキャリアを勤め上げた旧世代の象徴的的存在。年齢差や意表をつく上下関係のみならず対照的なキャリアが、自ずとふたりの間に目に見えない隔たりをつくります。セルバンテスの名言To be prepared is half the victory(よく準備して臨めば半ば勝ったも同然)の如く、綿密に練り上げられた舞台設定によって、半ば本作の成功は約束されたようなものです。

多忙なジュールズは直属の部下となったシニア・インターンのことなどすっかり忘れていて、ベンはロクな仕事を与えられず手持ち無沙汰な日々が続きます。待てど暮らせど新規メールは一向に届きません。PCを前にしたベンの淋しそうな表情が印象的です。念願の職を得たはずなのに、疎外感は半端ありません。こうした序盤の描写が、中盤以降の予想外の展開への巧みな布石となっています。

やがて、同僚の社内恋愛の相談に乗ったり頼まれてもいないデスクの片付けをしたりして、ベンは周囲から頼りにされる存在に。そして、ひょんなことからジュールズの専属運転手を務めることになります。細かなことにもさりげなく目配りするベンを疎ましく思ったジュールズは彼を異動させようとしますが、結局、改心してふたりの距離は一気に縮まります。英語なら、”Narrowing Distance”という感じでしょうか。

ところが、ジュールズの身辺が俄かにざわつき始め、彼女は思いもかけない窮地に立たされることになります。忙しすぎるジュールズに代わって主夫(育メン)を務めるマットとの関係がギクシャクする一方、気の進まないCEO選びがスタート。口煩い母親との関係も一向に好転しません。一歩下がって静かにジュールズを見守るベンは、誰よりもジュールズの努力と能力を評価し、仕事も家庭も悔いのない選択をすべきだと助言します。最近、日本でも定着してきたメンターという役割をベンが見事に果たしています。様々な世代が同居するビジネスシーンにおいて、ベンは恰好のロールプレイモデルです。

ロバート・デニーロ演じるベンはカッコ良すぎます。好感度抜群の最大の理由は、決して威張ったりキャリアをひけらかさないところです。ベンは身なりにも人一倍気を配ります。カジュアルウエアが当たり前の職場にひとりベンだけが背広姿。革製のブリーフケースも古き良き時代のアイコンです。自分流にこだわりながら、慎ましやかに周囲に溶け込もうと努め、不慣れなPC操作に取り組むベンはいつも前向きです。女性を虜にする場面はなんと言ってもハンカチを差し出すシーン。「ハンカチを持ち歩くのは女性に貸すためさ」なんて気障なセリフが似合うのもベンだからこそです。インハウス・マッサージ師のフィオナならずとも、ベンのような紳士は女性がほっときません。21世紀理想のアクティブシニアはベンで決まりです。太極拳のシーンで始まった映画のラストも太極拳のシーン、オープニング・クレジットで流れた<愛と仕事が人生のすべて>というジークムント・フロイトの言葉がじんわりと心に沁み入ります。

最後に気になった英語表現を書き留めておきます。字幕は状況に即した上手い訳になっています。米国版宣伝ポスターに大きく書かれた”Experience never gets old (goes out of fashion)"は「経験は決して歳をとらない」、終わってみればストンと腑に落ちます。3番目のrain checkを使った表現はスマートにリクエストを断る際に使えますね。

“You’re never wrong to do the right thing”
 正しい行いは迷わずやれ
“Let’s make it happen”
 行動あるのみ(実現しよう)
“We gotta do that again for sure, but okay by you if I can take a rain check ?”
もちろん、またやろうね。でも、君さえ良ければ、別の日にしてもらえるかい?

プライムビデオを視聴するのであれば、本編終了後の特典映像は見逃せません。