九谷焼が日本を代表する色絵陶磁器であることは周知の事実です。九谷焼の名工・初代須田菁華(すだせいか)は、北大路魯山人に陶芸の手ほどきをしたことで知られています。九谷焼では、吉田美統と三代目徳田八十吉のふたりが人間国宝に名を連ねています。そして、九谷と言えば「九谷五彩」。黄・緑・紺・紫・赤の鮮やかにして華やかな色彩が抜きん出た特徴とされています。
こうした華やかな装飾性に惹かれる九谷焼ファンが大勢いる一方で、そのけばけばしさに拒否反応を示す人もいるのではないでしょうか。どちらかというと自分は九谷焼が苦手です。料理の器にした場合、本来主役であるべき料理が脇役になってしまうように思えてなりません。その昔、愛読していたコミック『美味しんぼ』には、北大路魯山人をモデルにした海原雄山が九谷焼を貶めるシーンが登場します。飾り皿ならまだしも、食器としてはどうなのでしょうか。
先週から、東武百貨店で「福島武山・礼子展」が開催されています(会期は12/13まで)。福島武山氏は「赤絵細描」の第一人者にして、父・武山に師事し伝統技法を承継するのが娘の礼子さんです。内弟子に女性しか採用しない名工・福島武山の外弟子になって、今や師を凌ぐ人気を誇るのが見附正康氏です。「赤絵細描」は、同じ九谷の仲間とは思えない細密描画を以て見る者を唸らせます。伝統的な「九谷五彩」と比較すると、単色の赤で濃淡をつけた方が品よく仕上がるように思えます。手書きの繊細さにおいて双方に優劣はつけ難いものの、「赤絵細描」は繊細な赤の線と点だけで構成されるだけに、その単純さが超絶技巧を際立たせる効果をもたらしています。
福島武山作「鳥獣戯画 杯」(2023)と黒マットの片口
見附正康作「赤絵細描小紋片口」(2023)
懇意にしている美術部のTさん曰く、比較的出るタイプの山水文様より鳥獣戯画の杯が珍しいのだとか。今年は「赤絵細描」に目覚め、年初に見附正康氏の片口を、そして今回念願の福島武山氏の杯を手に入れました。見込にも酒肴を担ぐ兎(甲・第8-10紙)が描かれていて、畏れ多くて普段使いする気にはなれません。しばらく食器棚の上に飾ってから、棚奥深くに仕舞い込まれることになるでしょう。