2023年12月10日|マジックアワーの「三鷹跨線橋」渡り納め

先週日曜日の夕方4時過ぎ、自宅から歩いて「三鷹跨線橋」に向かいました。妻にも声を掛けました。「三鷹跨線橋」の正式名称は「三鷹跨線人道橋」と言います。「三鷹跨線橋」の閉鎖が決まり翌日から渡ることが出来なくなるからです。目的地に近づくにつれて人影がどんどん増えていきます。階段入口にたどり着き見上げてみれば、全長90m・幅3mの橋の上は詰めかけた人で溢れんばかりでした。橋に上れば、「こんなに人がいてこの橋大丈夫か?」と呟く声が聞こえます(内心、頷く自分)。

人波をかき分けながら橋を進むうちに、シャッターチャンスの「マジックアワー」を迎えました。日の入りしても、しばらく昏くならない時間帯が「マジックアワー」です。人口に膾炙しているのは「薄明(はくめい)」でしょうか。昏くならないのは、上空の大気がまだ太陽光を散乱させ光っているためです。この日の日没時刻は16時28分。三鷹車両センターに明かりが灯り、線路を横切るように光の帯が走ります。西南西の地平の果てにはオレンジ色に染まった富士山が屹立し、得も言われぬ幻想的な光景が広がっています。

太宰治は生前、「ちょっといい所がある」と言って友人知人を「三鷹跨線橋」に案内したそうです。戦後78年、太宰ゆかりの建物は次々と姿を消し、とうとう最後の砦にして近隣住民に愛されてきたランドマーク「三鷹跨線橋」(1929年竣工)も、94年の歴史に終止符を打つことになりました。12月上旬の撤去工事開始がアナウンスされるや、カウントダウンを惜しむように「三鷹跨線橋」を訪れる人の数が増えていったのです。

日没から約30分、「三鷹跨線橋」の渡り納めにふさわしい切なくもまた贅沢な時間でした。