そう来たか「地球の歩き方」(国内版シリーズ第二弾は東京多摩地域編)

海外渡航が制限されるようになって3年目、旅行代理店、航空会社、鉄道会社、ホテル、旅館等、旅行業界の主だったプレーヤーは例外なく窮地に立たされています、考えてみれば当然ですが、海外旅行向けガイドブックの需要もないに等しい状況なのでしょう。

そうなれば、卒業旅行でお世話になった海外ビンボー旅行のバイブル「地球の歩き方」(1979年創刊)も存亡の危機を迎えているはず。昨年、「地球の歩き方」がダイヤモンド社傘下から学研グループに事業譲渡されたと伝えられたとき、すわっ経営危機かと懸念しました。「地球の歩き方」に限らず、そもそも旅行ガイドブックは毎年改訂され最新情報が掲載されてこそ存在意義があります。渡航制限で現地取材もままならず、「地球の歩き方」はこのまま廃刊かと思いきや、2020年にシリーズ国内版初となる「東京」編を刊行、今年になって第二弾「東京多摩地域」編が刊行されました。次は「京都」編だそうです。窮余の一策とはいえ、飽和状態の国内版旅行ガイドブック市場に参入して果たして採算が取れるのものでしょうか? 編集部曰く「採算度外視」なのだとか。

最近、六本木・蔦屋書店で「東京多摩地域」編を見つけたのでパラパラしてみました。地元・三鷹市武蔵野市にはそれぞれ見開き2頁×3の計6頁が充てがわれています。三鷹市の場合、玉川上水沿いの遊歩道「風の散歩道」の写真に1頁の半分を割り当て、最後の見開き2頁はふんだんに写真を使って、「太宰治文学サロン」、「太宰治展示室 三鷹の此の小さい家」、「玉鹿石」などを紹介しています。太宰ゆかりの「跨線橋」は解体予定とちゃんと注釈もついています。海外版は口コミ情報が強みでしたが、国内版はビジュアル重視といったところでしょうか。

銭湯特集でも三鷹の「春の湯」が取り上げられ、『孤独のグルメ』原作者で三鷹出身の久住昌之のインタビュー記事も掲載されていました。市民なら誰しも思いつくような観光スポットだけでなく全方位への目配りが感じられます。島嶼部を除けば、多摩地域には26市、3町(奥多摩町・日の出町・瑞穂町)・1村(檜原村)が存在します。昭島市あきる野市と言われても、自分にはどんな街なのかぼんやりしたイメージすらありません。灯台下暗しと言います。「東京」編はともかく、エリアが広い「東京多摩地域」編にはそれなりのレゾンデートルがありそうです。

シリーズ初の国内版「東京」編が刊行されたとき、読者からは「多摩は東京じゃないのか?」という指摘が相次いだそうです。続刊を「東京多摩地域」(永久保存版)と断るあたり、配慮が窺われます。まあ、港区や中央区の住人からすれば、千葉や埼玉同様、多摩地方は未知のエリアなのでしょう。一方、東京都の面積2,188 km²に対し、多摩地域の面積は約1,160 km²。 人口こそ少ないものの、面積は東京都のほぼ半分を占めています。例えば、表紙に描かれた高尾山(薬王院)にしても、真面目に歴史や自然環境を取り上げようとすれば相応の紙幅が必要です。

「山あり街あり歴史あり」「武蔵野がつなぐ東京を新發見!」と銘打ったこの企画、意表を突かれましたが、むしろ地域住民の耳目を集めているように思えます。