新・国立競技場竣工に思う〜妥協の産物はランドマークになるのか〜

2020年東京オリンピック開会式まであと半年余り。初詣を済ませた元日午後、たまたま新・国立競技場(地上5階・地下2階)の近くを車で通りかかったら、競技場のこけら落としになった第99回天皇杯勝戦直前で大変な人出でした。

この新・国立競技場、当初は国際コンペを勝ち抜いた英女性建築家ザハ・ハディド氏(2016年に急死)のデザインが採用されるはずでした。流線美を強調したフィルムはこれまでスタジアム建築で見たこともない斬新なデザインだっただけに、巨額の建設整備費(最終試算額2520億)がネックとなって白紙撤回されたのは残念な結末でした。ザハはあくまで設計責任を負わないデザイン監修者の立場、少し気の毒な気がします。このデザインの白紙撤回は、佐野研二郎の五輪ロゴの盗作疑惑とともに、オリンピック開催を前に後味の悪い印象を残したことは間違いありません。

代わりに設計・施工一体型公募で選ばれたのは、隈研吾建築都市設計事務所大成建設・梓設計共同事業体案。審査で専ら重視されたのは工期や工費。結果、出来上がった新・国立競技場の外観は凡庸なものでした。コンセプトに「杜のスタジアム」を標榜し、軒庇に47都道府県から取り寄せた国産木材を使ったことが環境重視だと強調されますが、主要な構造部はあくまでコンクリートであり鉄骨です。

旧・国立競技場には屋根がなく、建築面積は新・国立競技場の1/2以下の33700㎡でした。新・国立競技場の延べ面積に至っては以前の3倍以上に膨れ上がりました。巨大化した新・国立競技場を空から見ると少し太めの数字のゼロ、ドーナツを引き延ばしたようなフォルムになったのは、片持ち式屋根を架けたため。お世辞にもカッコいいとは言えません。

施工上、最も難航したのはその屋根工事だそうです。屋根全体を256のユニットに細分化し、地上で組み立て、クレーンで吊り上げ接合したと伝えられます。設計者のこだわりを限られた工期で形にした施工担当の大成建設とその下請け会社が新・国立競技場の真の立役者ではないでしょうか。

昨年12月15日付日経朝刊に掲載された大成建設の全面広告には、新・国立競技場の大きな写真に添えてこうありました。

「地図に残る仕事。」

政治主導で工期と工費が最優先された新・国立競技場はいわば妥協の産物。朝日新聞編集委員大西赤人は、関連記事のなかでこの巨大建築を「調停の建築」と呼んでいました。言い得て妙です。旧・国立競技場は周辺景観とよく調和していたように思います。これから、歳月を重ね、新・国立競技場も周辺環境と馴染んでいくのでしょうか。明治神宮と外苑は都心の貴重なオアシスだけに、新・国立競技場が今後の使われ方も含めて、未来のランドマークになることを切望してやみません。