「いだてん~東京オリムピック噺~」の蔭の主役は森山未來

2019(令和元)年のNHK大河ドラマ「いだてん~東京オリムピック噺~」(脚本:宮藤官九郎)の視聴率は、年初から超低空飛行を続け、期間平均で歴代ワーストの8.2%でした。初の一桁という不名誉な記録でもありました。タイムシフトで視聴していたので、大河の視聴率には貢献できませんでしたが、個人的には、結構楽しませて貰いました。サブタイトルの<オリムピック噺>からして、オリンピックではないことに気づけば、自ずとその歴史に興味が湧いてきます。「いだてん」は、過去の大河に比して、世間で酷評されるほど見劣りしないと感じています。日本人初のオリンピアンにして箱根駅伝の生みの親、金栗四三中村勘九郎)の波乱万丈の生涯や、途中で組織委員会事務総長を断腸の思いで辞することになった田畑政治阿部サダヲ)の熱血漢ぶりを世人に知らしめた今回の大河ドラマの功績は、もっと評価されて然るべきです。スポーツ黎明期の教育者をはじめとする関係者やアスリートの奮闘ぶりを深く知って、2020年の東京オリンピックを蔭で支える人々にもっとスポットライトが当たってくれたらと切に願っています。1964年の東京オリンピックの開会式と閉会式で国名が変わった「ザンビア共和国(旧・北ローデシア)」の新しい国旗に纏わるエピソードも初耳でした。来年、新国立競技場にはためくことになるオリンピック参加国の国旗にも注目したいと思っています。

<東京オリンムピック噺>と題した落語と主人公の生涯をシンクロさせたことによって頻繁に場面転換が生じ、少々あらすじが分かりにくくなったことは認めます。他方で、戦中戦後を通じた市井の人々の暮らしや街角風景の変貌ぶりを巧みに描写することに成功しています。短所も十分カバーした<東京オリンムピック噺>だったのではないでしょうか。

「いだてん」の主人公は言うまでもなく金栗四三(前半)と田畑政治(後半)ですが、蔭の主役は、間違いなく、古今亭志ん生ビートたけし)若き日の美濃部孝蔵を演じた森山未來(35)でした。ささくれだった表情といい、すさんだ暮らしのなかで見せる鋭い眼光といい、迫真の演技でした。なにより、落語が天下一品でした。そこいらの真打より格段に上手です。高座で森山未來の噺を聞きたいとさえ思いました。近い将来、大河ドラマで主役を張る逸材だと確信しました。