映画『コクリコ坂から』と「国際信号旗」のメッセージ

渋谷から東急東横線経由で終点元町・中華街駅まで特急で37分。例年なら、年に数度は訪れるヨコハマの「港の見える丘公園」、「神奈川近代文学館」、「アメリカ山公園」・・・いずれもコロナ禍でお預け状態です。

夏休み恒例の日テレ「金曜ロードショー!」で、久しぶりに『コクリコ坂から』を視聴しました。映画の舞台は東京オリンピック直前1963年の横浜です。港町横浜といえば、真っ先に思い浮かぶのは「大さん橋(正式名称は横浜港大さん橋国際客船ターミナル)」に停泊する大型客船。満船飾の飛鳥IIや外国船と遭遇するチャンスもあるので、横浜を訪ねたら「大さん橋」は見逃せません。

映画の重要なモチーフになっている「国際信号旗」のメッセージについておさらいしておきたいと思います。主人公の松崎海(フランス語の海"la mer"に因んで作中メルと呼ばれています)が庭で掲げる国際信号旗(UW旗)が「港の見える丘公園」の一角にたなびいています。去年11月上旬に現地で撮影した写真をアップしておきます。

DとXを組み合わせた「二字信号」のメッセージは「当船は沈没しようとしている」、転じて「あなたに溺れてしまいそう」という符牒になっているそうです。機知に富んだメッセージだけにここぞという場面で使えそうですね。

国際信号旗」は、アルファベットの文字旗26枚、数字旗10枚、代表旗3枚、回答旗1枚の計40枚で構成されます。万国共通のアルファベットの旗1枚(「一字信号」)を掲げておけば、当該船舶の置かれている状況がひと目で分かるようになっています。即ち、旗にはアルファベットではなく、遠くからでも明認しやすいようにアルファベット一文字ごとに異なったデザインがあしらわれています。

毎日、メルが高台にあるコクリコ荘で掲げるのはUとWの旗。この2つのアルファベットがUWの順で組み合わされると、「ご安航を祈る(I wish you a pleasant voyage)」という「二字信号」のメッセージになります。メルと親しくなる前から俊は高台に上がるUW旗に気づいていて、父が操船するタグボートから「回答旗」を掲げていました。朝鮮戦争に巻き込まれて父が亡くなったあともメルが信号旗の掲揚を欠かさないのは何故でしょうか。いろいろな解釈が成り立ちそうですが、信号旗を介した父との対話を絶やさないことがメルの大切な日課なのだと理解しています。「清涼荘(カルチェラタン)」の取壊しに反対する新聞部長俊ら仲間たちの旧き建物への愛着も、メルの亡父への切ない思いと重なります。ラストシーンでメルが旗を上げるとき、それまでと違ってしっかりと上を向いていたことが印象的でした。

映画が公開されたのは東日本大震災の年の7月16日でした。挿入歌のひとつ「上を向いて歩こう」(坂本九さんの歌声)に励まされた人も多かったのではないでしょうか。