キバナコスモスの秋|都内屈指の極上空間<浜離宮恩賜庭園>を訪ねて

都心一等地にある<浜離宮恩賜庭園>は「特別名勝」にして「特別史跡」。「特別名勝」とは、文化財保護法によって指定された名勝のうち、特に、風致景観が優秀で、学術上価値の高いものとして文部科学大臣が指定した名勝のことですから、国宝級の景観だと言って差し支えありません。都立9庭園のうち「特別名勝」に指定されている3庭園のなかでも、「特別史跡」と重複指定された<浜離宮恩賜庭園>は別格の存在です。

たった300円の入園料(写真下)を支払えば徳川将軍家ゆかりの大名庭園を闊歩できるのですから、夢のようなスポットではありませんか。同じく「特別名勝」・「特別史跡」重複指定の<六義園>は、徳川五代将軍綱吉の屋敷として造営され、明治期には三菱財閥創始者岩崎弥太郎の別邸でした。住宅地にある<六義園>と比べても、中心部から南に潮入りの池を配置した<浜離宮恩賜庭園>は遥かに開放感があって、西側の汐留高層ビル群と庭園緑のコントラストがひときわ美しく、都立9庭園を総合評価するとすればダントツ1位だと思っています。さながら都会のオアシスです。

今回は<中島の御茶屋>に立ち寄り、お抹茶(温・冷選択可能です)と和菓子(「紫式部」)を頂きました。10月の主菓子は「菊」「紫式部」に「紅葉」。季節感を大切にしたおもてなしが<中島の御茶屋>ならではのサービス、東京在住の外国人に人気のスポットなのも納得です。緋毛氈に座って景色を愛でつつ頂く温かいお抹茶は最高でした。池にせり出した月見台へ出てみるのも一興です。明治時代、中島茶屋(現在の御茶屋は伝統技術の粋を活かして復元されたもの)では明治天皇が外国政府高官ら賓客と謁見したそうです。世が世なら庶民など足を踏み入れることさえ許されなかった極上な空間、季節を変えて再訪したいスポットです。

中島と岸辺をつなぐ<お伝い橋>は贅を凝らした総檜造り。途中で鍵型に曲げて視点を転じさせるあたり、趣向に富んでいるなと思いました。<潮入りの池>には、文字通り東京湾隅田川の出口)の汽水が引き込まれていますので、海の魚が泳いでいます。鮮明な画像ではありませんが、写真下はお伝い橋の袂で見つけたクロダイです。ハゼやボラをはじめ、チチュウカイミドリガニやユビナガスジエビなども生息しているそうです。小舟で釣りをしたとされる将軍様は入れ食い状態だったのではないでしょうか。

写真のように秋は北端築地川に沿ってキバナコスモスが咲き誇ります。この日は、たまたまNHK BSプレミアム(コスモス満喫!秋の浜離宮~江戸東京400年をひもとく)のライブ収録日と重なりました。放映中の大河ドラマ『青天を衝け』に登場する十五代将軍慶喜鳥羽・伏見の戦いから敗走、軍艦開陽丸で逃げ帰って下船した場所が写真の「将軍お上りの場」です。鴨場や都内最大級の樹齢300年の黒松など見どころ満載の<浜離宮恩賜庭園>は、歴史エピソードの宝庫。好天の日にブラリ出掛けたいスポットです。