前回、NHK・ドラマ10『正直不動産』を取り上げました。不動産取引全般には様々なリスクが付きものです。今回は、実体験に基づく土地売買の盲点(落とし穴)について解説します。
12年前、戸建て住宅を建設するために約60坪の土地(更地)を購入しました。同じ町内からの住み替えだったので、周辺環境については熟知しているつもりでした。更地として一帯の土地が売却される以前は、王子製紙と関係が深い日本紙パルプ商事の社宅3棟が並んで建っていました。辺りは第一種低層住居専用地域(建ぺい率・容積率は40/80)で高さ制限は10m。吉祥寺や三鷹周辺は丸の内や大手町など都心への交通アクセスが良好ですから、駅から徒歩10分圏内に大企業の社宅が数多く存在しました。ところがバブル崩壊後の90年代半ばあたりから、資産圧縮の一環で金融機関がこぞって社宅や単身寮廃止の方向を打ち出し、大手メーカーをはじめ一般企業においても好立地の社宅や寮を廃止する動きが加速しました。背に腹は代えられないと、リストラのために福利厚生のための中核資産の売却に着手したわけです。それ以前は協和銀行(現・りそな銀行)の社宅跡地に建てた家に住んでいたので、我が家は社宅と縁が深いのです。
【物件情報の入手方法】親しくしていた三井のリハウスから物件情報を入手した時点で、全9区画のうち5区画にすでに買い手がついていました。週末になると新聞の折り込みチラシに不動産広告が目立つようになりますが、これを頼りに土地やマンションを探すのは素人さんです。広告に出ている土地は、「売れ残り」だと思っておいた方が賢明です。今回のような好立地の大規模住宅地開発の場合、不動産業者には早い段階で情報が入ります。従って、好条件の住宅用地を購入したければ、付き合いのある不動産仲介業者に希望条件(土地の広さ、駅からの距離、希望価格、購入希望時期等)をあらかじめ細かく伝えておき、新着物件情報を可能なかぎり早く入手することです。最近、近所でダイワハウスの3LDK戸建て住宅が2区画開発されましたが、東側1区画は当初より売却対象ではありませんでした。購入済みだったのでしょう。
【売主の素性】次に問題になるのは売主の素性です。先の9区画の売主は、日本紙パルプ商事ではなく中堅の建設会社(以下:D社)でした。日本紙パルプ商事は、敷地と築古の社宅を共々買い上げてくれる業者を優先したのでしょう。社宅撤去費用はD社が負担することになるので、売買代金はその分低く抑えられます。なぜ知名度の低いD社が選ばれたのか、今もって謎です。よく目にするのは、まとまった土地を名のある住宅建設会社が手に入れ、建築条件付きで売却したり、戸建て住宅を建設して分譲するケースです。但し、建築条件付きの場合、施主の希望通りに居宅を建設することはかなり難しくなります。D社は自社で住宅建設を請け負うことなく、社宅撤去後整地して、複数の不動産仲介会社を介して、買主を探す暴挙に出ました。明らかなバラ売りです。最初にD社が適正に分筆しなかったために、折角の広い土地は早い者順で分筆がなされ、全体として見た場合、秩序のない区割りになってしまいました。D社に9区間全体の景観を考慮するような視点がなかったことが悔やまれます。
【土の費用】最寄駅から徒歩8~10分の9区画すべてにほどなく買い手がつきました。買主が選んだハウスメーカーは、案の定、三井ホームや三菱地所ホームが多数派でした。我が家は輸入住宅を専門に手掛ける業者を選びました。建設着工を前にして、気になった点が幾つかあります。老朽化したコンクリート造の社宅が取り壊され基礎を取り除いた結果、表土が失われ、道路より土地が低くなってしまいました。雨水が道路から流れ込む可能性があるので、こちらから盛土をお願いしました。仲介業者が無償でトラックを使って盛土をしてくれましたが、「土留め施工費」を別途請求される可能性があります。逆に道路より土地が高ければ、「残土処分費」がかかります。購入する土地の様子をよく観察し、こうした追加費用が発生する場合、誰が負担するのかあらかじめ決めておかないと紛争の元になります。
【地盤改良費】埋立地など軟弱地盤だと地盤改良費がかかります。地盤調査の結果、小規模住宅に適合的なタイガーパイル工法による地盤改良を施し、地震時への抵抗力を強化することにしました。建物のサイズ次第ですが、土地を購入する場合、数百万単位で追加コストが発生する可能性があります。
【土地の隠れた瑕疵】地盤改良費も目に見えないコストですから、購入土地の特性をあらかじめ知っておくことが重要です。もうひとつ、建設中に地下の埋没物が見つかる場合があります。『正直不動産』の文化財出土は稀な事案としても、コンクリートガラ(コンクリートの瓦礫のこと)、杭、井戸、浄化槽などを、解体業者が適切に処理しないで放置する可能性があります。我が家の場合、竣工後、植栽のため土を掘り返していたら、コンクリートガラが大型のビニル袋数個分、見つかりました。仲介業者に苦情を言って、彼らの責任で引き取ってもらいました。埋没物の撤去費用は誰の負担なのか、<隠れた瑕疵>と言えるのかどうか、法律上の争いに発展する可能性があるので、売買契約上、買主が不当に損することのないよう、責任の所在を明らかにしておきましょう。
【敷地延長土地の間口の広さ】旗竿地(敷地延長土地)の場合、間口が狭いと大変困ったことになります。建築基準法では道路に最低2m接していないと建物を建てることはできません(建築基準法第43条)。旗竿地の大きなメリットは通路部分を駐車場に有効利用できることですが、2.5mは狭すぎて小型車しか駐車できません。我が家は3.12m(12センチ買い増した結果)ですのでゆとりがありそうですが、決して十分な間口とは言えません。隣地境界には塀を作るので、その分、間口は狭くなります。加えて最近はクルマの大型化が進み、愛車のコンパクトSUVでさえ幅員は1850mmあります。自転車の通行、宅配・郵便・新聞等の配達員の常時通行を考えると、今のクルマのサイズがギリギリ一杯なのです。中型SUVを買いたくても、全幅は1900mm前後になりますから、土台無理なわけです。さらに、建物建設(取壊し)には重機が不可欠ですから、搬入できるスペースの確保はマストです。一方、敷地延長土地の間口を2.5mのギリギリに設定すれば、土地の値段が高い整形地はその分広くなり、売主の実入りが増えることになります。旗竿地を購入する場合は、デメリットをよく理解した上で、最低でも3mの間口を確保すべきです。写真(右上)のような、通路部分をいびつに切り取った旗竿地も考えものです。
実体験に基づく土地売買の盲点(落とし穴)、参考になったでしょうか。走りながらひとつひとつ懸案を解決していった記憶があります。人生で一番高価な買い物には思わぬリスクが付きものです。くれぐれも業者に騙されないように、刮目して臨むことです。