空前絶後の「安藤忠雄展 挑戦」


国立新美術館で開催中の安藤忠雄展はMUST-SEEです。建築家の展覧会としては空前絶後ではないでしょうか。10/10付けの朝日新聞によれば、この展覧会は、ほぼすべてが安藤さん(76歳)と事務所の手作りなのだそうです。道理で展示されている模型や液晶ディスプレイをはじめ館内レイアウトまで、桁違いのスケールです。そこいらのディスプレイを手掛ける業者や学芸員の共同作業では実現不可能な代物です。圧巻は、野外展示スペースに再現された「光の教会」(大阪市茨城市)、実物大のコンクリート造りで来館者は中に入って写真撮影をすることも可能です。

安藤忠雄の建築物との最初の出会いは、TIME'S I(1984年)でした。就職してまもない時期に京都までわざわざ足を運び、高瀬川の水べりまで降りてしばらく佇んでいた記憶が鮮明です。高瀬川沿いの景観を巧みに取り込んだコンクリート造りの建物は、行政とすったもんだの末に完成に漕ぎつけたものです。当時から安藤さんはチャレンジ精神旺盛だったようです。建物内部は京都の町家や路地を彷彿させる構造になっていて、迷路を歩くような愉しみも味わえます。テナントの使い勝手は必ずしも芳しくなさそうですが、出世作の「住吉の長屋」然り、人が家に寄り添って暮らすことが要求されるのでしょう。


展覧会会場の前半は個人向け住宅の展示、壁に沿って設えた細長いテーブルの上には、木製の住宅模型やドローイングが配置され、正面の液晶ディスプレイで竣工後の邸宅の様子をうかがうことができます。贅を尽した金持ちの邸宅よりも、「住吉の長屋」のような狭小住宅にこそ、安藤さんの真価が発揮されているように感じました。狭い土地、ウナギの寝床のような敷地形状、採光の困難さ、限られた予算といった制約こそが、建築家に豊かな着想を育ませる原動力に違いありません。面白いと思ったのは、住んでみてのクライアントメッセージが添えられていること。不便さと引き換えに自然の移ろいを手に入れたりと思わぬ恵みがあるようです。

野外展示は「光の教会」、元の建物の倍の費用をかけて再現してみせるあたり、安藤さんは太っ腹です。お蔭で十字のスリットから差し込み西日を浴びることができました。後半は、公共建築の揃踏み。大規模な施設には安藤建築の真骨頂ヴォイドが似合います。もうひとつの目玉は、直島のジオラマを囲むように設えた巨大ディスプレイです。画面を通して圧倒的な迫力で瀬戸内海の風景と地中美術館を俯瞰できます。


出口手前で<未来を育む>と題した短いビデオを観て終了です。「建てたら終わりではなくスタート」だというメッセージに強く共感しました。歴史的建造物を取り壊すのではなく、その良さを活かしながら新しい建築と共存させるという試み(日本工業倶楽部会館ビルなど)が近年脚光を浴びています。安藤さんの言う(建築の)「継続する力」には無限の可能性が秘められています。

安藤さんの過去の著作もそうですが、今回の図録にも真っ赤な表紙の見返しに、3種類の直筆サイン(リトグラフのようですが・・・)が入っています。あっという間の3時間でしたが、まだ見足りません。会期中にもう一度、訪れるつもりです。