重力波とは何か?〜天才アインシュタインの先見〜

今週はノーベル賞ウィーク。今年こそ重力波初観測が受賞するだろうと予想していたらその通りになりました。朝刊が詳細を報じてくれるだろうと期待していたら、扱いは社会面の1/4程度、たとえ日本人が受賞しなくとも世紀の大発見がノーベル物理学賞を受賞したとあらば、せめて数倍の紙面を割いてほしいものです。

そもそも「重力波」とは何なのでしょうか。<アインシュタインの最後の宿題>と云われた20世紀の大きな物理学上の謎が解明されたのは2015年9月のこと。メディアは話題がサイエンスの最先端成果に及ぶと、途端に寡黙になります。ジャーナリストにサイエンスのバックグラウンドを持つ人が極めて少ないためです。また、取材を重ねたとしても、研究者に数式抜きで言葉による説明を求めることは無理難題を押しつけるものだからです。

一般紙よりも日経新聞の記事の方が「重力波」は分かり易く説明されていました。肝心の観測方法に言及している点も評価できます。この点について、池上彰さんには紙面批評コラムで鋭く切り込んで欲しいものです。日経では次のように説明されています。

重力波」は、質量をもつ物体が動いたときに生じる時間や空間のゆがみが波のように伝わる現象だ。ブラックホールが合体する際などに発生する。

カルテクとMITが共同運営する重力波天文台"LIGO"は、巨大な観測装置で長さ4キロのパイプ2本が直角に繋がっています。"LIGO(ライゴ)"はレーザー干渉計重力波天文台の略称です。重力波観測装置の仕組みは、2019年にも本格稼働するという"KAGRA"(岐阜県飛騨市)の仕組図を拝借しました。ダン・ブラウン原作の映画『天使と悪魔』に登場した世界最大の粒子加速器"CERN(セルン)"もそうでしたが、こうした大型研究施設なくして実験物理学は成り立たない時代を迎えているのでしょうか。「重力波」発生源の場所を特定するには、最低3ヵ所で同じ信号を確認しなければならないそうです。

今や、世界中で1000人を超える研究者が関わっているという「重力波」観測プロジェクト、そのきっかけを作ったのはアインシュタインでした。「重力波」初観測のちょうど100年前、アインシュタインは発表した論文のなかで「重力波」の存在を予言しました。天体(物体)は自分と接している重力場から力を受けています(近接作用)。時空のどこかにゆがみが生じると周囲に波動となって伝わっていくのだそうです。「重力波」とは「時空のゆがみ」を伝える波なのです。

一般相対性理論の数学は四次元幾何学の世界、一般人には到底理解不能です。おまけに我々が中高で学んだユークリッド幾何ではなく、非ユークリッド幾何学のひとつリーマン幾何です。莫大な資金が投じられた「重力波」観測の偉業にノーベル物理学賞が与えられたことよりも、アインシュタインがペンと紙だけで100年も前にその存在を予言していたことに、むしろ言葉にならない驚きを感じています。ニュートンが主張した「絶対時間」・「絶対空間」という概念をあっさり否定したアインシュタインこそ、真の天才なのです。

刊行されたばかりの『重力波 発見!』が天文学の歴史から内外研究の最新動向までを網羅していてお薦めです。