「有事の金」投資(2)〜金のセンチメンタルバリュー〜

国際情勢がここまで緊迫すると予期していたわけではありませんが、先月下旬、マンダリンオリエンタル東京で開催された豊島逸夫さんの金投資セミナーを聴く機会がありました。動機は興味半分、あとは高級ホテル特製のケーキセット付きという謳い文句に惹かれての参加でした。

冒頭、会場の大型スクリーンに大写しになったのは一冊のアルバムでした。スイス銀行在職中の豊島さんがチューリッヒで同僚から自宅の夕食に誘われたときに奥様が見せてくれたという代物。そこには、当時7歳の娘さんのバースデー写真と共に(その年を刻んだ)金貨が1枚ずつ貼ってありました。母親は毎年成長の記録と共に金貨を1枚ずつ買って、娘が嫁ぐ日にプレゼントとしてアルバムを渡すのだそうです。我が子への溢れんばかりの愛情に加えて、人生の節目節目でおカネが必要になったとき金貨は保険の役割も果たしますから、実に理に叶ったプレゼントです。

豊島さんならずともホロリとさせられるエピソードです。もし、渡されたのが単なる金の延べ棒や株券だったら受け取ったときの娘さんの気持ちもずいぶん変わったに違いありません。以前もブログで触れた記憶がありますが、UBSに在職中、誕生日になると支店長がデスクにやって来て、和光の純銀スプーンをプレゼントされたものです。おまけに勤続5年ごとに結構な金額のボーナスが漸増支給されましたから、競争が熾烈で転職率の高い外資系金融業界ではまことに珍しい習慣でした。貰ったスプーンを数えれば勤続年数が分かりますから、自然と愛社精神が育まれます。スイスではバースデーにこうした形で貴金属をプレゼントする習慣でもあるのでしょうか、日本企業も離職率低下を狙って見習ってみてはどうでしょうか。

金の財産的希少価値に着目するだけではなく、そのセンチメンタルバリューに目を向けて下さいという氏のメッセージには説得力がありました。冷たくて無表情な金にハートのぬくもりをつけ加えることで投資も輝いて見えます。おまけに、毎年バースデーに金貨をプレゼントすることでドルコスト平均法によるコストヘッジ効果も生まれ、一挙両得です。将来、我が家に孫娘でも誕生することがあれば検討する価値がありそうです。