題名のない音楽会から〜短調こそモーツアルトの真骨頂〜

日曜日の朝はときどき「題名のない音楽会」を観ています。黛敏郎が司会だった時分から視聴していますから、ずいぶん長寿番組になったものです。去年の10月に佐渡裕さんからバトンを引き継いだヴァイオリニストの五島龍さんが司会を務めています。

今朝は、「天才モーツァルトの音楽会」と題したモーツァルト短調の曲にスポットを当てた番組構成でした。演奏は地元フィルのトウキョウ・ミタカ・フィルハーモニア(昨年まで「トウキョウ・モーツァルトプレーヤーズと呼ばれておりました)、指揮も三鷹出身沼尻竜典さんでした。

番組最初に演奏されたのは交響曲第25番ト短調第一楽章。映画『アマデウス』(1984年)(2002年ディレクターズカット)の冒頭でサリエリが自殺を図って血まみれになったシーンで流れる曲です。次の演奏曲は交響曲第40番第一楽章、アンリ・ゲオンが<tristesse allante(疾走する悲しみ)>と形容した名曲です。モーツアルトの音楽が悲しいという表現に違和感を感じる向きは多いでしょう、寧ろ、モーツァルトの音楽は総じて明るいと感じる方が自然なのです。生涯で遺した楽曲626曲のうち短調の曲はごく僅か、交響曲に至っては前述の2曲だけなのですから。

モーツァルトが生きた18世紀には、晩餐会や舞踏会という華やかな場面で音楽が演奏されました。明るい長調の楽曲が好まれたのは当然のことです。自分もモーツァルトで一番好きな曲はと問われれば、ディヴェルティメント第17番ニ長調(KV334)と答えます。この曲はちなみにザルツブルクの名門貴族ロービニヒ家のプライベートな祝事のために作曲されたと云われています。

締めくくりに演奏されたのはピアノ協奏曲第20番ニ短調。演奏は新進気鋭のピアニスト反田恭平さん(21)でした。スターリンが最も愛した曲としても有名です。陰鬱な印象さえ与える旋律は次第に激情を吐き出すように力強いものへと変貌していきます。劇的な展開と評される所以です。天才の名を欲しいままにした35年という短い生涯、晩年のモーツァルトの境遇を思うと、世に知られる歓喜の楽曲の底流にもそこはかとない悲しみが漂っているように思えてきました。