2020年初春コンサートの皮切りは、若手ピアニスト高橋望さんの「ゴルトベルク変奏曲」(BWV988)でした。チケットとCDは、高橋さんを個人的に応援しているという知人弁護士のT さんが贈って下さいました。会場は壇上のグランドピアノを囲むように客席が配置された東京文化会館小ホール。この日は自由席だったので、花崗岩の衝立を挟んで二段目中央最前列に着席しました。休憩を挟まない約80分の演奏中、名器ベーゼンドルファーの屋根から波のように耳朶に押し寄せ反響するカノンに陶然と酔い痴れました。
バッハの楽曲のなかで「ゴルトベルク変奏曲」は一番のお気に入り。普段は、MJQを率いた故ジョン・ルイスの「ゴルトベルク変奏曲」を愛聴しています。演奏時間が1時間余りとほどよい長さなので、気軽に聴けて親しみやすいと言えます。クラシックファンのみならずジャズファンさえ魅了した名盤に、キース・ジャレットがハープシコードで演奏した名盤「ゴルトベルク変奏曲」があります。耳に馴染んだはずの「ゴルトベルク変奏曲」でしたが、ライブはやはり格別でした。冒頭(と最後)のゆったりとしたアリアの調べだけでこの曲の評価は不動のものになったような気がしました。クラシックの名曲数多あれど、これほど澄明な旋律が至高の領域にあるのは間違いありません。
客席からは高橋さんの滑らかな運指が目に入り、アリアに挟まれた美しい30小節のカノンとともにピアニストの身体性に触れることができました。「ゴルトベルク変奏曲」をライフワークにされているという高橋さん、来年は会場を東京オペラシティリサイタルホールに移して、新境地に挑むのだそうです。
- アーティスト:髙橋望
- 出版社/メーカー: Accustika
- 発売日: 2015/05/28
- メディア: CD