『京都ぎらい』が売れているらしい

建築史家として知られる井上章一氏の『京都ぎらい』の売れ行きがいいのか、このところ、全国紙のブックレビューで度々取り上げられています。出版直後に通読して久しいのですが、今や、11刷を重ね13万部を突破したのだとか。都内の本屋でさえ平積みされていますから、関西ではさぞや読まれているのでしょう。

内容はと云うと、京都市内における微妙な地域間差別や蔑視の存在を詳らかにしたものです。近世においては、豊臣秀吉が築造した御土居によって洛中洛外が明確に線引きされていました。しかし、明治以降、洛中洛外の意識はてっきり希薄化したものだと思っていました。本書が明らかにする「洛中至上主義」とは、狭義の京都人にとって守るべき大切な矜持のひとつなのでしょう。ときとして、洛外出身者を前に「いけずぅ〜」な態度に出たりします。

本書を読んで一番笑えたのは、「そやかて、山科なんかいったら、東山が西の方に見えてしまうやないの」という下りです。今や、京都を代表する観光地のひとつ、嵯峨でさえ、口さがない京都人にかかると「ええか君、嵯峨は京都とちがうんやで」と蔑まれてしまうのだそうです。嵯峨は著者の出身地なるが故に、洛中人と出会って痛烈な差別意識を植え付けられた格好です。

歴史の浅い首都圏においてさえ、こうした揶揄は枚挙に暇がありません。「ださいたま」とか千葉県にあるのに「東京ディズニーランド」とか・・・それに比べれば、洛中洛外を今も隔てて考える京都人がいても何の不思議もありません。洛外人も差別的言辞をどこか愉しんでいるようにも映ります。1200年を超える京都の歴史文化の一部と鷹揚に構えて見れば、差別ではなく、寧ろ愛すべき区別なのだと思えてきます。

京都ぎらい (朝日新書)

京都ぎらい (朝日新書)