GAFA帝国の次なる支配戦略~さらなる成長に死角はないのか?~

GAFA>には様々な異名があります。本拠地米国メディアは"Big Four"や”Big Tech(或いは単にTech)”と呼び習わすのが通例です。一説では、仏ルモンド紙が最初に<GAFA>という新語を使ったのだそうです。売上・利用者数が桁違いの規模を誇る<GAFA>は今やなくてはならない社会インフラとして市民生活に浸透し、先進国のみならず発展途上国でも圧倒的な存在感を発揮しています。

1月4日、米アップルの株式時価総額が3兆ドル(円換算345兆円)を超えたとメディアが一斉に報じました。パンデミックの最中にありながら、昨年の同社の株価上昇率は33%、巨大テックのGoogle(+65%)やマイクロソフト(+51%)の株価も絶好調です。

スコット・ギャロウェイNY大学スターン経営大学院教授は、著書『GAFA next stgae』(東洋経済新報社刊)のなかでこれらテック企業の株価急上昇にこう言及しています。

<大方の論評には次のようなただし書きがつく。上がったものは必ず下がる。これらの企業の株価が急上昇しているのには、バブル的要素がある。ブームが去ったとき、上がったときと同じくらいのスピードで落ちる、と。>

<それは違う>

パンデミックは、少数のテック企業が私たちの生活や経済を支配するという流れに拍車をかけた>

巨大テックの死角を求めて本書を購読したのですが、3分の1も読み進まないあたりであっさりと期待は裏切られました。結論は<上がったものは下がらない>でした。これを裏付けるようにアップルの時価総額は著者の予想を遥かに凌ぐスピードで膨張しています。iPhoneシリーズの原価率はかつて20%前後でした。最新のiPhone13 Proとなると原価率は35%あたりまで上昇してきたようですが、驚異的な水準にあることに違いはありません(高額ガジェットですから、店舗1平方フィートあたりの販売額は世界一でしょう)。アップルに貢ぎながら、悔しい哉、未来永劫iPhoneを手放す暮らしに戻ることはできそうにありません。本書に度々登場する言葉のひとつに"ディスラプション=disruption"があります。一義的には「破壊」や「崩壊」を意味しますが、文脈上、既存のものを破壊してしまうくらい革新的なイノベーションという意味合いで用いられています。例えば、インターネットが「ブランド時代」に終焉を告げ「プロダクト時代」の幕開けを高らかに宣言したようにです。高級ホテル・リッツ・カールトンだからといって旅行者が飛びつく時代は終わったのです。
GAFAに続くと思われているディスラプターには、ワン・メディカル(医療)、ペロトン(フィットネス)、ロビンフッド(金融)、ショピファイ(小売)、スポティファイ(音楽)、テスラ(EV)、ウーバー(配車サービス)などが挙げられています。脱炭素化技術をめがけてテスラをはじめとする有望企業に巨額の投資資金が流入し、さながら「緑のGAFA」探しが始まっています。

莫大な収益を稼ぎ出す<GAFA>やマイクロソフトなどの巨大テックは、将来の事業展開にプラスと見れば、一気にそうした新興ディスラプターさえ買収してしまうだけの資本を蓄えており、虎視眈々と獲物に狙いをつけているのです。巨大テック企業は謂わば捕食者("predator")であり、彼らにとってヘルスケアや教育分野は恰好の獲物なのです。著者・ギャロウェイ教授は<子ども大学に行かせてよりよい生活を送らせたい>という中産階級の希望と夢を食い物にしてきた大学は早晩淘汰され、強い大学はより強く弱い大学はより弱くなると予測しています。21世紀の高等教育に対する著者の提言には傾聴すべき点が多いと感じました。

過去10年で米国はイノベーション経済から搾取経済に移行し、経済成長の果実はイノベーターではなく資本家の手元に転がり込むと著書は警鐘を鳴らしています。結果、アメリカンドリームは今や風前の灯となり「新たなカースト制」が誕生しています。次世代に担う子どもたちをビッグテック(電子機器依存症)から守ることも重要だと指摘しています。GAFA帝国の支配に今のところ死角は見当たりません。巨大テックが掌握した私的権力を抑制し個人の権利を拡大することこそ、喫緊の課題だと筆者は協調します。しかし、残念なことに、巨大テックは権力と癒着していますから、彼らにとって都合のいい政府を変革するのは容易ではありません。パンデミックの蔭で着々と支配領域を拡げる巨大テックは不気味でならない存在なのです。