新作歌舞伎『陰陽師 滝夜叉姫』の未来

昨夜は9月花形歌舞伎夜の部へ。予約サイトへのアクセスに悪戦苦闘した3月の経験を踏まえて、今回は予約開始時刻数分前にはパソコン前で待機。結果、首尾よく花道に近い特等席を確保できたので、勇んで歌舞伎座に向かいました。

開演まで少し時間があったので歌舞伎座裏手の歌舞伎そばへ駆け込み、名物「もりかき揚げ」で腹ごしらえ。口直しに水を飲もうと手にとったコップに歌舞伎座の座紋「鳳凰丸」をあしらってあることに気づきニンマリ。
















新開場柿葺落公演に新作歌舞伎登場と発表されたのは4月のこと、歌舞伎ファン待望の舞台2日目にお目にかかれるとは僥倖でした。夢枕獏さんの原作を今井豊茂氏が脚本化したものだそうですが、筋書に寄せられた「新しい古典となることを願って」という原作者の言葉が将来きっと実現すると思わせる素晴らしい舞台でした。

舞台は2回の幕間を挟んだ三幕構成。平将門海老蔵)が東国へ旅立ち、その後、密命を帯びた秀郷が将門討伐へ向かい本懐を遂げるまでが序幕、二幕目は屋敷で源博雅勘九郎)と寛ぐ安部晴明(染五郎)のもとへ滝夜叉姫が現れたと知らせが届きます。都では、孕み女が相次いで殺され、将門を討った平貞盛は奇病に罹ります。魑魅魍魎さえ跋扈する騒然とした都のありさまに心を痛めた帝の命を受けて、晴明が陰陽師として変事の原因を探りにかかります。

三幕目で討たれたはずの将門が興世王(おきよおう)の呪詛によって蘇生復活、秀郷は晴明と共に再び将門と対峙し、舞台は大団円を迎えます。

大向こうからの掛け声やここぞとばかり鳴り響く柝の音は紛うことなき歌舞伎の世界。新作は、かたや、日本一と云われる廻り舞台を縦横に駆使して趣向を凝らした舞台転換を披露してくれます。オペラやミュージカルかと錯覚させる視覚に訴えた舞台演出のお蔭で、3時間という公演時間がむしろ短く感じられました。言葉遊びも巧みに取り入れた結果でしょうか、晴明と博雅の遣り取りや妖術使い蘆屋道満亀蔵)の台詞がときにユーモア溢れ、観客席に笑い声をもたらします。

こんな歌舞伎は初めてです。厳しい稽古を重ね伝統を堅守する一方で、新たな挑戦を試みる歌舞伎の世界に確かな未来を感じた一夜でした。

余談になりますが、TVドラマ『半沢直樹』でヒール黒崎金融庁検査官を演じる片岡愛之助さんがこの舞台でもヒール(興世王)を演じています。晴明役の染五郎を食わんばかりの熱演でした。