武蔵野版リバースモーゲージの誤算

1981年、日本で初めてリバースモーゲージを導入した武蔵野市が制度の見直しを検討中とか。地価の下落で貸付金を回収できない事例が発生したからだそうです。

導入当時の80年代は土地神話が健在でした。バブル崩壊まで地価は上昇し続けたので、買いそびれまいと誰もがマイホーム購入を急ぎました。武蔵野市が制度設計をした当初、長期にわたる地価下落というシナリオを織り込むことは難しかったのでしょう。

30年以上も前に民間銀行に先駆けてリバースモーゲージを導入した武蔵野市の先見には敬意を表しますが、ふたつの誤算があったように思います。想定外の地価下落に加え、平均寿命の伸びが担保不動産の処分による回収を困難にしたのです。

リバースモーゲージは紛れもない金融商品、リスクの見極めを難しくしているのは利用者が死ぬまで元本が減らないという点です。武蔵野市は貸し手としてこの商品特性を軽んじていたふしがあります。当然、金融の専門家に相談した上で融資条件を決めたはずですが、日本では前例のないリバースモーゲージという制度に内在するファイナンスリスクをプロさえ見誤っていたことになります。

制度発足から現在までの融資総額は17億円、利用件数にして119件。平均融資額は1400万円余り、住宅地として都内1、2位の人気を誇る武蔵野市にして融資の焦げ付きが生じるわけですから、この20年余りの地価崩落(ピーク時の50%程度か)がいかに凄まじかったかが分かります。

廃止も含め制度の見直しを図るという武蔵野市、高齢者向け福祉の一環として他に先駆けて取り組んだ点は十分評価に値すると思います。この間、信託銀行を中心に複数の民間金融機関もリバースモーゲージの導入に踏み切り、市場は拡がりを見せています。これからは、利子補給制度や代理貸付制度を導入するなどして自治体は民間金融機関を補完する役割に徹する方が賢明かも知れません。

長生きリスクという言い方は必ずしも適切ではありませんが、高齢者向け介護住宅も入居時に法外な保証金を要求される時代になりました。利用者が長生きすると施設の運営者の採算は却って悪化するというジレンマ。長生きリスクのヘッジコストは高まる一方だということを胆に銘じておくべきでしょう。