有元利夫展(2013年)

毎年2月、千代田区三番町にある小川美術館を訪れることにしています。1985年2月24日に38歳の若さで他界された有元利夫さんの回顧展が開かれるからです。煉瓦色のタイルが印象的なオフィスビルの1階、向って左の小さな自動扉をくぐるとそこが小川美術館です。年に一度の回顧展(無料です!)は有元さんの命日前後から開催されるのが常で、今年の会期は2月25日から3月9日ということでした(*常設展が開催されているわけではないので注意が必要です)。

アーチ型に切り取られた回廊を通り過ぎると正面に大展示室があって、右方向に3つ、小さな展示室が展開します。数えたわけではありませんが、展示された作品数は数十点といったところでしょうか。1点1点ゆっくり鑑賞しても小一時間あればすべての作品を網羅できます。観客の行列ができるような大規模な展覧会の苦手な自分にとって、有元さんの回顧展は頗る理想的な環境設定といえます。

いつから有元利夫さんの絵に惹かれるようになったのか定かではありませんが、20代後半には銀座彌生画廊を覗いたりした記憶があるので、学生の頃すでに好きな画家だったように思います。装丁に惹かれて本を買うことが多々ありますが、宮本輝さんの作品と出会うきっかけを作ってくれたのは表紙を飾った有元さんの絵でした。氏の出世作錦繍』の表紙に使われた≪遥かなる日々≫は大好きな作品のひとつです。

展示作品には一切キャプションがないので、見る人は余計な雑念から解放されて作品に集中できます。そのせいでしょうか、代表作の≪花降る日≫や《厳格なカノン》は、見る度に異なった空想をかきたててくれます。螺旋の坂道や階段を昇るひとりの女性は一体何を目指しているのでしょうか。見ようによっては来迎図のようにも思えてきます。静寂な空間には光が差し込み、バッハのような厳かな旋律が女性を天空へと誘っているのでしょうか。

不思議な魅力を湛えた有元ワールド、来年も楽しみにしています。

(注)www.yayaoigallery.comにメールアドレスを登録すると展覧会の案内が頂けます。