「アルゴ」の粗さがし(ネタバレあり)

アカデミー賞三部門の受賞が決まり、「アルゴ」の上映館はどこも盛況のようです。今週、やっと作品を観ることができました。前評判どおりのスリリングな展開で、冒頭からエンドロールまで息つく間もありませんでした。1979年11月にイラン・アメリカ大使館で実際に起きた占拠・人質事件を元に制作されただけあって、全編から史実の重みが伝わってきます。まだご覧になっていない方はこの先ネタバレがありますので、映画鑑賞後にお読み下さい。

1979年1月、イラン革命が勃発。親欧米路線を敷いたパフラヴィー国王が祖国イランを去り、アメリカに事実上亡命したことから、ホメイニーが指導するイスラムシーア派は元国王を保護するアメリカに敵意を募らせます。アメリカが元国王の引き渡しに応じないため、アメリカ大使館はとうとう暴徒化した民衆に襲われます。大多数の大使館員が人質となるなか、6名が大使館からの脱出に成功します。映画「アルゴ」では、ほどなくカナダ大使私邸に匿われた米大使館員6名がCIAの作戦実行者に導かれイランを脱出するまでを描きます。

この映画にはスパイ物に散見されがちな過剰な演出がありません。時は寧ろ静かに進行します。隠れ家で絶望感に苛まれる大使館員たちの表情からは窮地に追い込まれた状況が手にとるように伝わってきます。隠れ家を出発しようと車のトランクに荷物を積み込むシーンも同様です。実際に起きた出来事を忠実になぞった結果たまたまそうなったのかも知れませんが、淡々とした事態の推移が却って見ている者の緊張感を増幅します。

万策尽きたかに見えた状況を救ったのはCIA工作員のアントニオ・メンデス、彼が提案した救出作戦は大使館員たちをカナダ映画のスタッフに仕立て短いロケ直後出国させるという誠に破天荒なものでした。幾多の障害を水際でクリアしてスイスエアがイラン領空を離れた瞬間、無事機上の人となった大使館員たちに笑顔が戻ります。

実にいい映画でした。13日にDVDが発売されていますのでしばらくしてからまた観たいと思います。最後に劇的な救出作戦の成功の過程で少し気になったことがあります。粗さがしに過ぎませんが書き記しておきます。

・大使館員たちの偽造パスポートが例外なく数日前に発行されたばかりである点
・米国に近いカナダ大使周辺が執拗にマークされなかった点
・カナダ大使に仕えるイラン人メイドが危険を顧みずゲストの滞在期間について嘘の証言をした点

厳密にはこの映画の脚本の原作ではありませんが、スター勲章に輝いたアントニオ・メンデス自身が書いた『アルゴ』(ハヤカワノンフィクション文庫)もお薦めです。

アルゴ (ハヤカワ・ノンフィクション文庫) (ハヤカワノンフィクション文庫)

アルゴ (ハヤカワ・ノンフィクション文庫) (ハヤカワノンフィクション文庫)