コダックの誤算

http://img.blog.gallery.vc/20110706_1968554.jpgイーストマン・コダック社が経営破綻し、Chapter11の適用を申請しました。経営破綻の直接的な原因はいうまでもなくデジタルカメラの普及に伴う写真フィルム市場の崩壊です。往時のコダックと云えば、誰しも「コダックイエロー」と呼ばれるパッケージを想起するのではないでしょうか。圧倒的な販売力で市場を席巻し向かうところ敵なしだったという印象が強いはずです。行楽地の売店に駆け込んでコダックや富士写真フィルムの商品を買い求めた時代を懐かしく思い出します。皮肉にも、コダックを窮地に陥れたデジタルカメラを他社に先駆けて開発していたのがコダック自身だったいうから驚きです。巨額の利益を産むフィルム事業にこだわり衰退を辿ることになる同事業に経営資源を集中させたことは、後知恵とは云え、当時の経営陣にとっては痛恨の極みでしょう。アカデミー賞の授賞会場であるコダック・シアター(ハリウッド)もお役御免になってしまうのでしょうか。

80年代、ライバルだった富士写真フィルム(現:富士フィルム)がフィルム事業で蓄えた潤沢な手元キャッシュを活かして富士ゼロックスを傘下に収めるなど経営多角化に取り組み、技術革新という荒波を見事に乗り切ったのとは実に対照的です。コダックは株主還元を優先したため内部留保が乏しかったことも禍いしました。とは云え、無借金経営の富士写真フィルムといえども経営破綻の可能性は十分あったわけです。英語では市場がburn outするという表現を使いますが、この10年を振り返ってみると金融や商取引の世界でも同じような市場の崩落(或いは喪失)が相次ぎました。インターネットの普及で証券取引所からは場立ちが消え、有価証券取引では従来の対面販売が不振を極めています。高利を貪って隆盛を極めた消費者金融業界も、上限金利の一元化によって最大手の武富士が倒産し、今や風前の灯です。今朝の日経一面は楽天の2011年度の取扱高が1兆円を超えたと報じています。デパート業界が次々と再編を迫られるのも道理です。

コダックの誤算は決して他人事ではありません。バブル崩壊後、勤め先の会社の存立基盤が怪しくなり早期退職を迫られたり配転させられたりと辛酸を嘗めた人も多いはずです。National Flag Carrierと呼ばれた日本航空も公益企業の代表格東京電力債務超過に陥り実質破綻しました。上場会社の不倒神話は今や夢物語に他なりません。会社のみならず国家や地方自治体にも破綻というリスクが存在するということに人々は気が付き始めています。多難な21世紀を生き延びるためには「備えよ常に」という心構えが欠かせないようです。