そう来たか「地球の歩き方」(国内版シリーズ第二弾は東京多摩地域編)

海外渡航が制限されるようになって3年目、旅行代理店、航空会社、鉄道会社、ホテル、旅館等、旅行業界の主だったプレーヤーは例外なく窮地に立たされています、考えてみれば当然ですが、海外旅行向けガイドブックの需要もないに等しい状況なのでしょう。

そうなれば、卒業旅行でお世話になった海外ビンボー旅行のバイブル「地球の歩き方」(1979年創刊)も存亡の危機を迎えているはず。昨年、「地球の歩き方」がダイヤモンド社傘下から学研グループに事業譲渡されたと伝えられたとき、すわっ経営危機かと懸念しました。「地球の歩き方」に限らず、そもそも旅行ガイドブックは毎年改訂され最新情報が掲載されてこそ存在意義があります。渡航制限で現地取材もままならず、「地球の歩き方」はこのまま廃刊かと思いきや、2020年にシリーズ国内版初となる「東京」編を刊行、今年になって第二弾「東京多摩地域」編が刊行されました。次は「京都」編だそうです。窮余の一策とはいえ、飽和状態の国内版旅行ガイドブック市場に参入して果たして採算が取れるのものでしょうか? 編集部曰く「採算度外視」なのだとか。

最近、六本木・蔦屋書店で「東京多摩地域」編を見つけたのでパラパラしてみました。地元・三鷹市武蔵野市にはそれぞれ見開き2頁×3の計6頁が充てがわれています。三鷹市の場合、玉川上水沿いの遊歩道「風の散歩道」の写真に1頁の半分を割り当て、最後の見開き2頁はふんだんに写真を使って、「太宰治文学サロン」、「太宰治展示室 三鷹の此の小さい家」、「玉鹿石」などを紹介しています。太宰ゆかりの「跨線橋」は解体予定とちゃんと注釈もついています。海外版は口コミ情報が強みでしたが、国内版はビジュアル重視といったところでしょうか。

銭湯特集でも三鷹の「春の湯」が取り上げられ、『孤独のグルメ』原作者で三鷹出身の久住昌之のインタビュー記事も掲載されていました。市民なら誰しも思いつくような観光スポットだけでなく全方位への目配りが感じられます。島嶼部を除けば、多摩地域には26市、3町(奥多摩町・日の出町・瑞穂町)・1村(檜原村)が存在します。昭島市あきる野市と言われても、自分にはどんな街なのかぼんやりしたイメージすらありません。灯台下暗しと言います。「東京」編はともかく、エリアが広い「東京多摩地域」編にはそれなりのレゾンデートルがありそうです。

シリーズ初の国内版「東京」編が刊行されたとき、読者からは「多摩は東京じゃないのか?」という指摘が相次いだそうです。続刊を「東京多摩地域」(永久保存版)と断るあたり、配慮が窺われます。まあ、港区や中央区の住人からすれば、千葉や埼玉同様、多摩地方は未知のエリアなのでしょう。一方、東京都の面積2,188 km²に対し、多摩地域の面積は約1,160 km²。 人口こそ少ないものの、面積は東京都のほぼ半分を占めています。例えば、表紙に描かれた高尾山(薬王院)にしても、真面目に歴史や自然環境を取り上げようとすれば相応の紙幅が必要です。

「山あり街あり歴史あり」「武蔵野がつなぐ東京を新發見!」と銘打ったこの企画、意表を突かれましたが、むしろ地域住民の耳目を集めているように思えます。

引き上げが相次ぐ米長期金利の年末見通し~ゴールドマンは3.3%に引き上げ~

昨年3月から米ドル買いに着手、投資ポートフォリオの外貨建て比率を40%まで引き上げる目標を立てました。5月の連邦公開市場委員会(FOMC)において、米国連邦準備制度理事会FRB)は、政策金利であるフェデラル・ファンド(FF)金利の誘導目標を0.75~1.00%とし、6月1日から保有資産圧縮を開始すると全会一致で決定しました。昨年の段階では、ここまで米長期金利が上昇するとは思いもしませんでした。結果的に先回りとなったドル買いは悪くない決断でした。一方、黒田日銀は2月14日に10年物国債を対象に0.25%の利回りで無制限に買い取る指値オペを3年ぶりに実施しました。各国金利が急上昇しているにもかかわらず、日銀だけが下落圧力のかかった国債を買い支える挙に出たため円売りが加速、その後も、黒田総裁が声明を発する度に外国為替市場は敏感に反応し、ドル高が進みました。

こうした流れを受けて、米ゴールドマン・サックスは年末の米国10年債の利回り見通しを2.70%から3.30%へ大幅に引き上げました。ゴールドマンは3月24日に年末金利水準を2.25%から2.70%に引き上げたばかり。こう度々見通しを改訂されてはたまったものではありません。ドル買いはしばらく打ち止めにするつもりでしたが、つい最近、米ドルを追加購入したところです。大手証券会社でドルを買い付ける場合、取引単位が10万米ドル未満だと適用為替スプレッドは50銭、10万米ドル以上になると25銭にディスカウントされるので、ドル円押し目を見計らって、ある程度まとまったロットで米ドルを買い付けた方がコストセーブに繋がります。急激に米長期金利が上昇したため、銘柄によってはheavy discountで既発債が購入できます。今月初旬受渡のゴールドマン・サックス・グループ発行、残存9年弱の既発債は85円前後で約定できました。実質利回りは4%を僅かに切れる水準、悪くないトレードでした。

日米金利差が拡大すれば、円安が進み、縮小すれば円高になります。2019年以降、新型コロナウイルス感染拡大を受けてFRBが利下げを行ったため、ドル安・円高になりましたが、今年になって米国では力強い景気回復が確認され、長短金利が共に大幅上昇しています。5月上旬、米長期金利は3.12%まで上昇、現状は2.90%前後で落ち着いていますが、いつ上振れしても可笑しくはありません。

私たちの年金の一部を運用している年金積立金運用独立行政法人(GPIF)は、「市場のクジラ」と呼ばれ、約200兆円を内外の株式・債券で運用しています。GPIFの2021年第三四半期の運用状況を見ると、約50%が外国債券・外国株式で運用されていることが分かります。当面、円金利の上昇が見込めない状況下、投資ポートフォリオの外貨建て比率を高め、米国債や高格付けのドル建て債券に投資をすべきだと考えています。トヨタをはじめ、主要上場企業の2023年3月末の想定為替レートは115円から120円のレンジにあります。かなり保守的な想定レートだけに、年央から輸出企業の業績上方修正に期待しています。

映画『1917 命をかけた伝令』で知る塹壕の正体

舞台は第一次大戦下の西部戦線。通信手段が途絶したため、2人の若きイギリス兵・スコフィールドとブレイクが最前線で戦う友軍部隊に「退却したドイツ軍の追撃を中止せよ」と伝令する任務を与えられます。1600名もの将兵の所属する第2大隊がドイツ軍の撤退と見せかけた罠に嵌れば、壊滅的な被害が待っています。タイムリミットはたった1日、伝令役に選ばれた2人に時間的猶予はありません。

この映画のストーリーは、タイトルが示すように至ってシンプルで際立った目新しさはありません。終始、観客を圧倒するのは過去の戦争映画にはない凄まじい臨場感です、敵兵がどこに潜んでいるか分からない標なき戦場を進む2人にカメラが密着し、観客が分身となって行く手で遭遇する過酷な試練を追体験していくことになります。フライヤーに記された「異次元の映画没入体験」というキャッチコピーに偽りはありません。全篇が伝えられるようなワンカットで撮影されたわけではありませんが、出来上がった映画は確かに長回しのワンカットに見えます。第92回アカデミー賞作品賞を射止めたのは『パラサイト 半地下の家族』でしたが、10部門にノミネートされた本作は有力な対抗馬だったに違いありません。劇場公開日は2年前の2020年2月14日、悔やまれるのは、劇場上映を見逃したことです。

注目すべきは数キロにわたってすべてゼロから制作されたというセットの塹壕です。実にリアルで、もうひとりの主役は塹壕ではないかと錯覚するくらいです。塹壕("trench")とは、戦場で歩兵が銃弾を避けるために自陣に掘った溝のことです。バーバリーアクアスキュータムの代名詞となった「トレンチコート」は、長時間、塹壕で風雨に晒される兵士を守るために開発されたものです。長身の兵士でさえすっぽり身を隠せるように深く堀られた溝の周りには土嚢が堆く積まれ、兵員移動のための交通壕としての役割も果たします。伝令役の2人は兵士たちがひしめく塹壕をひたすら前進します。負傷した兵士や疲弊した兵士が壁に凭れかかるようにして休息をとっています。銃弾が飛び交う戦場で塹壕から顔や手足を露出すれば、敵の餌食になりかねません。塹壕は身を潜める場所でありながら、常に死と隣り合わせの危険極まりない陣地でもあるのです。爆撃機による空爆の前に塹壕は無力ですが、第一次大戦日露戦争塹壕が果たした役割を知る上で、この映画は有用なシーンを数多く提供してくれます。

ブックレビュー:『スルガ銀行 かぼちゃの馬車事件』(大下英治著・さくら舎)〜救世主・河合弘之弁護士が挑んだ白兵戦〜

書名を聞いてすぐにピンときた方は、金融や不動産関係のお仕事をされている方ではないでしょうか。この事件が発覚したとき、被害者に自分自身を重ねて、自責の念にかられた方も少なからずいることでしょう。バブル期に投資用マンションを購入して痛い目に遭った人たちは、思い出したくもない記憶を手繰り寄せたのかも知れません。ところが、この事件は都市部でユーフォリアに浸ったバブル期とはまったく様相を異にします。筆者は文春記者上がりのジャーナリストで、事件解決の立役者・河合弘之弁護士とは同い年で昵懇。本書は、政府の甘い年金見通しに不安を抱える現役世代が安易に手を出しがちな不動産投資に警鐘を鳴らす格好のドキュメンタリーだと申し上げておきます。

かぼちゃの馬車」とは、2014年から都内を中心に次々と建設された女性専用シェアハウスの名称で、開発を手掛けたのは当時急成長を遂げていたスマートライフ(社名変更後:スマートデイズ)という会社です。地方から進学や就労で上京してくる若い女性ターゲットにした賃貸不動産事業と言えば、確かに聞こえは悪くありません。なにより、シェアハウスという言葉の響きがトレンディーです。本書には「住まい×仕事」=<敷金・礼金・仲介手数料なし>の社会貢献型ビジネスだと説得され、殆ど自己資金なしでシェアハウスのオーナーとなった被害者が数多く登場します。不動産担保ローンを提供したのは、スマートライフに加担したスルガ銀行です。詐欺同然の巧妙な手口にまんまと騙され、被害者らが不動産投資にのめり込んでいった過程が克明に描かれています。

被害者の1人は、父親から手渡されたロバート・キヨサキの世界的ベストセラー『金持ち父さん・貧乏父さん』(1997年刊)に触発されて、不動産投資に手を染めていきます。教育資金捻出に苦慮する中年サラリーマン、有名私大の教授夫婦、共稼ぎのパワーカップル外資ベンチャー会社社員、医師など、相応の思慮分別を持ち合わせた人たちが巧みなセールストークに乗せられて、億単位のローン借用証書に捺印してしまいます。安定した不労所得が得られるという甘美な誘惑に標的となった顧客は易々と引っ掛かっていくのです。

一等地・銀座の社屋に高級ソファ、ベッキーさんのテレビCM、立派なパンフレット、テレビドラマ化されたシェアハウスのイメージ、巧みなセールストークなど、不動産投資の本質に関係のない謂わばセールスの装飾品に目が眩み、被害者たちは冷静な判断を下す機会を奪われていきます。不動産投資の大前提、デュー・ディリジェンスを怠ったために、彼らはとんでもない代償を支払う羽目になります。被害者の7〜8割が購入物件を見ていなかったそうです。近隣不動産の価格調査、周辺環境、竣工した同種建物の内見など、手間を惜しまず投資対象を精査していれば、7平米×18部屋(家具なし)(リビングスペースなし)のシェアハウス1棟投資がいかにリスキーで無謀なものか、火を見るより明らかです。

最大の落とし穴は、30年賃料保証のサブリースです。スマートライフはやがてブラックリストに載ることになり、土地・建物のパッケージセールスは間に入った不動産販売会社が担い、建設会社との契約を遅らせ、オーナーを意のままに操ります。そんな得体の知れない会社の長期賃料保証など空手形以外の何物でもありません。「サブリースで絶対安全」の謳い文句は、欺瞞に満ちた悪質なセールストークです。同業の大東建託レオパレスに唆され、相続税対策目的で安普請のアパート建設に踏み切ったオーナーも賃料改訂可能な長期サブリース契約の罠に嵌っているのです。

800人ものオーナーを集め凡そ1000棟のシェアハウスを運営する賃貸事業は、ほどなく破綻し、サブリース料を支払うために次のカモを見つける自転車操業の悪循環に陥っていきます。

絶体絶命のピンチにあって、無二の救いは被害者の会のリーダーT が同様の詐欺被害にあった娘婿を持つ辣腕弁護士・河合弘之と出会い、「ダグラス・グラマン事件」や「平和相互銀行事件」など華麗な実績を有する河合が代理人を引き受けたことでした。集団訴訟に出るものと思いきや、河合弁護士は長期戦は圧倒的に被害者に不利だと判断し、照準をスルガ銀行に絞って「白兵戦」に挑むと宣言しました。世論を味方につけ監督官庁を巻き込んで社会的事件だと喧伝し、スルガ銀行に代物弁済を呑ませる算段です。スルガ銀行へのローン返済をストップすることから闘いの火蓋は切られました。違法な融資に返済は無用だと、スルガ銀行信用情報機関への通知をストップさせています。やがて、スルガ銀行東京支店前での58回に及ぶ街頭デモや株主総会での経営責任糾弾に発展し、とうとうスルガ銀行が根を上げ、被害者の会は2年あまりの闘争を経て440億円の債務免除を勝ち取ったのです。往々にして経営寄りの判断を下しがちな第三者委員会(委員長:中村直人弁護士)が厳格な調査報告書を発表したことも、闘争の追い風になりました。スルガ銀行(総融資残高3兆円)の不動産担保融資は約1兆円、うち2000億円がシェアハウス関連だったそうです。残りの8000億円も実態は不良債権でした。各種資料の偽装、通帳残高の意図的な改竄、融資の見返りとしての歩積み両建てなど、銀行にあるまじき数々の不正を重ねてきたスルガ銀行の屋台骨は完全に崩れ落ちたのです。

相手が経営体力に勝るメガバンクだったら、この勝利はありえません。まさに薄氷の勝利です。リーダーTさんと河合弁護士の邂逅がなければ、被害者のなかには家族を窮地から救うための団信返済を狙って命を断つ者が続出したかも知れません。死線を越えて、資本主義の牙城・銀行の不正と闘った被害者たちの勇気と団結力には敬服します。しかし、被害者の多くが救済されたのは万にひとつの幸運だったに過ぎません。生兵法は大怪我のもとと言います。自らの知識や経験を過信せず、安易な投資に手を出せば必ず大火傷するのだと肝に銘じておくべきでしょう。

2022年GW中篇|小田急<丹沢・大山フリーパス>を使った日帰り大山詣り

先月下旬、想定外のヤマビル攻撃に見舞われた大山詣りのリベンジを兼ねて、晴天に恵まれたGW6日目、再び大山詣りに出掛けました。今回は、大混雑の予想されるGW真っ只中ですから、クルマではなく新宿駅から小田急線に乗車し、大山をめざしました。伊勢原駅バス停で神奈川中央交通の臨時直行便に乗車するとほどなく、伊勢原市出身の金原亭馬玉師匠によるダイジェスト版古典落語大山詣り」が聞こえてきます。20分の乗車時間を使って大山の魅力をアピールする粋な車内放送に感心頻りでした。復路では小噺3話と日向薬師の紹介があるそうです。

中央線沿線住まいなので小田急はめったに利用しません。江の島・鎌倉や箱根へ出掛ける場合は専らクルマを使います。調べてみれば、小田急は3種類の行楽用フリーパスを用意しています。初めて、<丹沢・大山フリーパス>を新宿駅南口の券売機で購入しました。券種は2種類あって、新宿発の購入代金は次のとおりです。両券種の料金の違いは、Aキップにだけ大山ケーブル(繁忙期往復運賃:1270円・子供640円)の利用代金が含まれていることです。ケーブルカーを利用して大山山頂をめざしたり、子供連れでハイキングをしたりする場合は、Aキップを購入するといいでしょう。両フリーパスを使えば、小田急線本厚木~渋沢間と神奈川中央バスの指定区間にかぎり、自由に乗り降りできます。有効期間が2日間あるので、工夫して使えばかなりお得な気がします。

Aキップ 大人2520円(子供920円)
Bキップ 大人1560円(子供400円)

大山詣りをする場合、新宿~伊勢原間は快速急行でちょうど1時間。注意点はロマンスカーなど特急を利用する場合、別料金となることです。新宿始発の快速急行は10分間隔で運行されているので、乗り遅れてもじきに次の便が来ますし、なにより伊勢原駅まで座っていけるのが有り難い。

車内で目にした<新緑の大山>の中吊りポスターどおり、わずか二週間足らずで山麓は新緑が目に眩しい季節を迎えていました。8時半過ぎ、大山阿夫利神社下社の拝殿前には参拝者の行列ができていました。今回は本坂経由の山頂アタックを断念して、下社~見晴台間のピストンにとどめました。眺望のいい見晴台に9時半前に到着、そこでブランチを済ませました。ひっきりなしに登山者がやってきてベンチに腰を下ろし休息します。お昼時には大混雑になったことでしょう。

ひと足先に大山ケーブル駅まで戻り、前回やり過ごしたとうふ坂を下り、良弁滝・あたご滝を見て、バスで伊勢原駅に戻りました。ここから<丹沢・大山フリーパス>の特典をフル活用します。次に向かったのは1駅先の鶴巻温泉駅。北口から徒歩数分の場所に公営日帰り温泉「弘法の里湯」があります。マンションが立ち並ぶ一角に日帰り温泉とは意外でした。<丹沢・大山フリーパス>を提示すると、2時間1000円の通常利用料から200円の割引を受けられます。登山やハイキング帰りのお客さんで受付けはごった返していましたので、GWや秋の行楽シーズンは混雑覚悟で臨みましょう。源泉が2つあってカルシウムやナトリウムイオン豊富な内風呂が人気のようです。

ハイキングの疲れを癒したら、次は逆方向の本厚木駅へ向かいます。厚木の最強ローカルフードとされるホルモンがお目当てです。お風呂上がりに飲むキンキンに冷えた生ビールと名物シロ(豚の大腸部位)は紛れもない黄金の組み合わせです。あっという間に制限の2時間が過ぎて、本厚木駅から快速急行に乗り込みました。車窓からは大山の山裾に沈まんとする夕陽が見えます。均整のとれた美しいピラミダルな山容を眺めながら、また来ようと思うのでした。

2022年GW|アルペンルートの玄関口・立山有料道路が通行止めに~ツアー参加者はどうなったのだろうか?~

4月30日、JR松本駅で18時40分発のあずさ54号に乗車、予定どおり旅程を消化して帰宅しました。2日後、あろうことか、富山と長野を結ぶ「立山黒部アルペンルート」の玄関口・立山有料道路(立山町)桂台―美女平間で、落石による土砂で道路の塞がれている箇所が発見され、上下線共に通行止めになりました。3日~5日はGWの真っ只中。通行止めによって、観光バスで立山有料道路経由室堂に向かうツアーは催行中止に追い込まれました。ツアー参加者はさぞ落胆したことでしょう。現時点で復旧の見通しは立っていません。

そのため、5月3日は未明からケーブルカーのきっぷ売り場に長蛇の列が出来て、最大3時間待ちになったようです。美女平へ向かう交通手段はケーブルカーだけになり、当日券を求める観光客がチケット売場に殺到したのでしょう。そのなかに諦めきれないツアー客が相当数含まれていたはずです。

ツアー当日にこうしたアクシデントに見舞われると、旅行会社の対応は後手に回りがちで、ツアー参加者は否応なく混乱の渦中に放り込まれます。ベテラン現地添乗員でも臨機応変に事態に対処することは難しいでしょう。出発前の催行中止であれば諦めもつきますが、すでに現地入りしているツアー参加者は直接状況を把握できる立場にないため、イライラが募り精神的に困憊してしまうに違いありません。

すべて旅行代理店任せだと、このように、身動きがとれなくなる虞大なのです。個人や少人数のグループなら、悪天候や交通遅延を見越して、あらかじめプランB、プランCを用意しておけば柔軟に対処できる可能性もあります。団体旅行が嫌いなわけは他にもたくさんありますが、ハイシーズンの貴重な休日、旅行のすべてを他人任せにして災難に巻き込まれるくらいなら、自己責任の個人旅行の方が精神衛生上遥かにベターではないかと思うのです。

2022年GW前篇(2)|青空にこそ映える「雪の大谷」と対面!

黒部宇奈月温泉駅に戻って北陸新幹線に再び乗車、富山駅まで10分余り。時間が許せば、のんびり沿線風景を楽しみながら「地鉄」で電鉄富山駅へ移動したいところですが、駆け足の旅にそんな余裕はありません。富山駅に到着するや横殴りの雨に見舞われ、天気は俄かに崩れ始めました。この日は、開業したばかりのホテルヴィスキオ富山にチェックイン。ひたすら翌日の天候回復を願いつつ早めに就寝しました。

翌朝、すっかり雨は上がり、ホテルを早々にチェックアウト、めざすは立山黒部アルペンルートです。JR富山駅周辺にはホテルが立ち並び、駅前にはバスロータリーや路面電車の線路や停留場がバランスよく配置され、地方都市とは思えない洗練された景観が整備されていました。宿泊したホテルはこの3月に開業したばかりのJR富山駅ビルの高層階にあって、「MAROOT(マルート)」と名づけられた商業スペースと共に頗る賑わっていました。関東地方の中核市と比較しても、富山駅前の景観は断トツで優れていると思いました。

電鉄富山駅から立山黒部アルペンルートの起点立山駅まで約1時間。ツアーに参加すれば大抵観光バスで出発地から室堂まで移動することになりますが、団体行動は大の苦手なので、発売開始日(3月15日)に「アルペンルートWEBチケット」(片道9300円・有効期限5日間)を手配しておきました。立山ケーブルカーの乗車時間さえ指定しておけば、あとは経由地で自由に時間が使えます。9時20分発を指定したので、立山駅での接続時間やQRコードを使った発券手続き等を考えると、7時過ぎには電鉄富山駅を出発しなければなりません。こうした計算や手続きを煩わしいと考えず、机上で自在にプランを練ってこそ旅の醍醐味が味わえるのではないでしょうか。旅は計画したときから始まっているのです。安易なツアー参加は、思考停止を招き、思わぬアクシデントに巻き込まれる虞があります。それから、3日後、バスツアー参加者の多くが室堂にたどり着けなくなるアクシデントに見舞われました。

美女平で立山高原バスに乗り換え、標高差約1500mを一気に稼いで、「立山黒部・雪の大谷フェスティバル」の会場・室堂平へ。立山黒部アルペンルートの最高地点・室堂平の標高は2450m、世界でも有数の豪雪地帯です。なかでも、室堂付近にある「大谷」は吹き溜まりになっているため、特に積雪が多く、その深さが20mに迫る年もあります。今年は降雪量が多かったので、「大谷」を通る道路を除雪してできた巨大な雪の壁は初日18mに達したそうです。2022年度フェスティバルの会期は4/15から6/25まで。そそり立つ圧巻の雪の壁を見たければ、なるべく早い時期に室堂平を訪れるべきです。ちなみに、5月12日現在、壁の高さは3m縮んで15mになっています。今年は2月に北京冬季オリンピックが開催された関係で、例年なら中国・工業地帯から運ばれてくる煤(スス)が環境対策強化で飛来せず、雪の壁が真っ白く見えるようになったそうです。立山自然保護センターのスタッフから、「今年はラッキーだよ」と囁かれました。

時期もさることながら、何より望まれるのは晴天に恵まれること。「雪の大谷」は青空に映えてこそ神々しいばかりに美しいのです。吹雪や濃霧が発生すれば忽ちホワイトアウトです。この日、室堂へ向かう途中、晴れていれば車窓から見えるはずの「称名滝」はガスに遮られ、思わしい出足ではありませんでした。ところが、室堂平に近づくにつれ青空が広がり、雲上にある奇蹟のような景色と対面できたのです。奥大日岳、剱岳、劔御前、雄山をはじめ雄大立山連峰を一望できました。ホテル立山の裏手へ回れば、立山三山が眼前に迫ってきます。

室堂から断崖絶壁に聳え立っ「大観峰」(標高2316m)まで立山トンネルトローリーバスで移動。眼下に黒部湖、正面に後立山連峰(通称「ごたて」)が見えるではありませんか。その上、古来より縁起のいい雲とされる「彩雲(さいうん)」に出会えました。「虹だ」という声が周囲から聞こえましたが、「彩雲」は太陽の近くを通りかかった薄い雲がピンクや薄緑色などに輝いてみえる現象です。必ずしも七色とは限りません。山の天気は移ろいやすいもの、「彩雲」の出現からお天気は下り坂に向かいました。ハイライトの室堂平と「大観峰」で晴天に恵まれたこの日ばかりは、お天気の神様に心から感謝したのでした。