黒部宇奈月温泉駅に戻って北陸新幹線に再び乗車、富山駅まで10分余り。時間が許せば、のんびり沿線風景を楽しみながら「地鉄」で電鉄富山駅へ移動したいところですが、駆け足の旅にそんな余裕はありません。富山駅に到着するや横殴りの雨に見舞われ、天気は俄かに崩れ始めました。この日は、開業したばかりのホテルヴィスキオ富山にチェックイン。ひたすら翌日の天候回復を願いつつ早めに就寝しました。
翌朝、すっかり雨は上がり、ホテルを早々にチェックアウト、めざすは立山黒部アルペンルートです。JR富山駅周辺にはホテルが立ち並び、駅前にはバスロータリーや路面電車の線路や停留場がバランスよく配置され、地方都市とは思えない洗練された景観が整備されていました。宿泊したホテルはこの3月に開業したばかりのJR富山駅ビルの高層階にあって、「MAROOT(マルート)」と名づけられた商業スペースと共に頗る賑わっていました。関東地方の中核市と比較しても、富山駅前の景観は断トツで優れていると思いました。
電鉄富山駅から立山黒部アルペンルートの起点立山駅まで約1時間。ツアーに参加すれば大抵観光バスで出発地から室堂まで移動することになりますが、団体行動は大の苦手なので、発売開始日(3月15日)に「アルペンルートWEBチケット」(片道9300円・有効期限5日間)を手配しておきました。立山ケーブルカーの乗車時間さえ指定しておけば、あとは経由地で自由に時間が使えます。9時20分発を指定したので、立山駅での接続時間やQRコードを使った発券手続き等を考えると、7時過ぎには電鉄富山駅を出発しなければなりません。こうした計算や手続きを煩わしいと考えず、机上で自在にプランを練ってこそ旅の醍醐味が味わえるのではないでしょうか。旅は計画したときから始まっているのです。安易なツアー参加は、思考停止を招き、思わぬアクシデントに巻き込まれる虞があります。それから、3日後、バスツアー参加者の多くが室堂にたどり着けなくなるアクシデントに見舞われました。
美女平で立山高原バスに乗り換え、標高差約1500mを一気に稼いで、「立山黒部・雪の大谷フェスティバル」の会場・室堂平へ。立山黒部アルペンルートの最高地点・室堂平の標高は2450m、世界でも有数の豪雪地帯です。なかでも、室堂付近にある「大谷」は吹き溜まりになっているため、特に積雪が多く、その深さが20mに迫る年もあります。今年は降雪量が多かったので、「大谷」を通る道路を除雪してできた巨大な雪の壁は初日18mに達したそうです。2022年度フェスティバルの会期は4/15から6/25まで。そそり立つ圧巻の雪の壁を見たければ、なるべく早い時期に室堂平を訪れるべきです。ちなみに、5月12日現在、壁の高さは3m縮んで15mになっています。今年は2月に北京冬季オリンピックが開催された関係で、例年なら中国・工業地帯から運ばれてくる煤(スス)が環境対策強化で飛来せず、雪の壁が真っ白く見えるようになったそうです。立山自然保護センターのスタッフから、「今年はラッキーだよ」と囁かれました。
時期もさることながら、何より望まれるのは晴天に恵まれること。「雪の大谷」は青空に映えてこそ神々しいばかりに美しいのです。吹雪や濃霧が発生すれば忽ちホワイトアウトです。この日、室堂へ向かう途中、晴れていれば車窓から見えるはずの「称名滝」はガスに遮られ、思わしい出足ではありませんでした。ところが、室堂平に近づくにつれ青空が広がり、雲上にある奇蹟のような景色と対面できたのです。奥大日岳、剱岳、劔御前、雄山をはじめ雄大な立山連峰を一望できました。ホテル立山の裏手へ回れば、立山三山が眼前に迫ってきます。
室堂から断崖絶壁に聳え立っ「大観峰」(標高2316m)まで立山トンネルトローリーバスで移動。眼下に黒部湖、正面に後立山連峰(通称「ごたて」)が見えるではありませんか。その上、古来より縁起のいい雲とされる「彩雲(さいうん)」に出会えました。「虹だ」という声が周囲から聞こえましたが、「彩雲」は太陽の近くを通りかかった薄い雲がピンクや薄緑色などに輝いてみえる現象です。必ずしも七色とは限りません。山の天気は移ろいやすいもの、「彩雲」の出現からお天気は下り坂に向かいました。ハイライトの室堂平と「大観峰」で晴天に恵まれたこの日ばかりは、お天気の神様に心から感謝したのでした。