福島遠征登山(2023-3-10/12)|<スノーモンスター>狙いの西大巓・吾妻山篇

福島県内には日本百名山が7座あります。都内から比較的アクセスしやすい燧ケ岳や会津駒ヶ岳福島県の山ですから、JR郡山駅を起点にアプローチする吾妻連峰(主峰・西吾妻山)はずいぶん遠く感じられます。それもそのはず、福島県は北海道、岩手県に次いで3番目の広さを有する県だからです。地図を確認すると、尾瀬ヶ原を代表する名峰・燧ケ岳は福島県西南端に位置し、人口密度が日本一低い檜枝岐村にあることが分かります。

今回、<スノーモンスター>との出会いを求めて福島遠征登山を計画しました。神奈川に住むMさんとスケジュールが調整できたので、東京駅で合流して東北新幹線で現地に向かいました。郡山入りしたのは3月10日の10時少し前。スタッドレスタイヤを装着したSUBARUインプレッサを借りて、2泊3日で西吾妻山安達太良山の2座を攻略します。たまたま立ち寄った裏磐梯ビジターセンターで親切な解説員の方から、山頂付近にはまだ<スノーモンスター>が残っていると説明を受け、一気に期待を膨らませました。例年なら3月上旬でも十分出会えるチャンスのある<スノーモンスター>が、このところの気温の急上昇で雪が溶けてしまったのではないかと危惧していたからです。

翌朝は天気予報どおりの快晴。前日、白鳥が飛来する猪苗代湖畔から全容を捉えることが出来なかった磐梯山(1816m)が神々しいまでの姿を見せてくれました。宿泊先・裏磐梯レイクリゾート本館前の駐車場から撮影した磐梯山をご覧下さい。チェックアウト早々、こんな絶景を見せつけられればテンションは自ずと最高潮に達します。

8時30分のゴンドラ運行開始時刻に間に合うようにホテルからグランデコ・スキーリゾート駐車場へ直行します。スキー・スノボ組が大勢かと思いきや、スノーシューやワカンを背負った同志登山客が目立ち、勇気づけられました。2人乗りのゴンドラで一気に標高380mを稼いで山頂駅(1390m)へ。振り返れば磐梯山が真正面に屹立しています。翌12日は春霞のせいで磐梯山は完全に隠れてしまったそうです。11日に西大巓(にしだいてん)経由で西吾妻山をめざしたのは大正解だったことになります。

ザックに新調したばかりのTUBBSスノーシューFLEX VRT・2023年モデル)を結わえたまま、西大巓まで軽アイゼンで進みました。途中、随所で膝まで雪に掴まりましたが、思ったほど歩行への影響はありませんでした。写真(上)では急登の先が山頂に見えますが、実は偽ピーク。その先もうひと踏ん張りしないと西大巓のピーク(写真・下)にはたどり着けません。ほぼ無風状態の好天に恵まれたお蔭で無雪期のCTで西大巓・山頂に到着、廃止された二等三角点の石柱を確認できました。西を望めば朝日連峰、360度の大展望を満喫しようと山頂に20分ステイ。気温の急降下に備えて用意した厚手のアルパイングローブはむしろ暑苦しいくらいで薄手のグローブに取り替えました。

西大巓山頂から少し下った平らなスポットでアイゼンを外しスノーシューを装着。サイズは25インチ。装着しないで背負っていると些か嵩張りますが、表面積が多い分だけ浮力が得られ、底面にクランポンのような爪が縦横に生えているので、広大な雪原で軽快に歩くことができます。履き慣れればこれほど頼もしいギアはありません。

西大巓から約1時間で西吾妻山・山頂(2035m)へ。オオシラビソ(マツ科モミ属の日本特産種・別名アオモリトドマツ)の最上部まで雪に埋もれる山頂では、山頂標識の代わりにピンクのリボンが目印です。後続の登山者にどこが山頂ですかと幾度も尋ねられました。枝葉が露出した老いぼれモンスターを覚悟していただけに、今シーズン最後の<スノーモンスター>を目に焼きつけることが出来て大満足の1日になりました。<スノーモンスター>に囲まれて食べたシーフードヌードルの味わいも格別です。<スノーモンスター>は、常緑針葉樹に季節風によって冷やされた水分が着氷し、着雪と着氷を繰り返しながら、巨大な雪塊に成長します。今年の最盛期は結果的に2月中旬~下旬だったようです。

2月20日付け朝日新聞・夕刊一面に「消えゆく樹氷 北から南から」という見出しが躍りました。地球温暖化の影響で樹氷形成に必要な気象条件が調わなくなるだけではありません。大気汚染による土壌の酸性化でオオシラビソが立ち枯れするようになり、樹氷の分布範囲は往時の4分の1にまで減少してしまっていると記事は伝えています。世界的にも珍しい樹氷が見られるスポットは、今や、西吾妻山のほかに蔵王連峰や八幡平など東北地方にごくわずかしか残されていません。このまま温暖化が進めば、今世紀末には<スノーモンスター>が見られなくなる可能性が大なのです。

吾妻ブルーと<スノーモンスター>が織りなす圧巻の景色は、移り気な冬山の気象条件次第です。<スノーモンスター>が群立する雪原で吹雪に見舞われたならば、忽ち方向感覚を喪い遭難するリスクに晒されたことでしょう。この日は奇しくも東日本大震災から12年目の3月11日。ゴンドラ山頂駅にたどり着いた15時少し前、心のなかで合掌しました。ちっぽけな存在の人間は大自然の驚異と猛威の前では畏敬の念を払って行動するしかありません。冬山の神様が微笑んでくれた丸1日に感謝して、山麓へ下りました。