大英博物館所蔵「ゲイヤー=アンダーソンの猫」に刻まれた<スカラベ>

2023年4月29日を以て入国制限が解除され、新型コロナウイルス感染症に対する水際対策も終了しました。それから半年、都心の観光スポットはどこも海外からの観光客でごった返しています。我が身はと言うと、足掛け4年に及んだ渡航制限の影響ですっかり海外への出足が鈍り、パスポートは未だに失効したままです。その間に、出入国手続きはデジタル化に伴って大幅に簡素化されました。入国制限が緩和されるや、機を見るに敏な次男はインド洋の宝石箱・モルディブへ。長男も先週からGoogleのご招待でロンドンへ出掛けています。そろそろ自分もエンジンをかけないと世界は遠ざかるばかりです。

喜々としてロンドンに向かった長男に、大英博物館(The British Museum)のミュージアムショップへ立ち寄ってくれるよう頼みました。なにしろ世界最大級の博物館ですから、立派なミュージアムショップを併設していて品揃えも大変充実しています。

古今東西の美術品や書籍を収蔵する大英博物館には、世界で最も有名な猫と言われる「ゲイヤー=アンダーソンの猫」のブロンズ像(写真・上)が展示されています。長男に依頼したのは、このブロンズ像のレプリカ購入です。古代エジプトコーナーにあってはサイズこそ目立ちませんが、ロゼッタストーンに匹敵する人気を誇っています。紀元前600~300年頃、古代エジプト新王国時代に作られたもので、エジプトの女神・バステトの化身とされる猫を象ったものです。耳と鼻に金の装飾が施され、しなやかな肢体がいかにも高貴な雰囲気を醸し出しています。大きな瞳が窪んで見えるのは元はガラスが嵌め込まれていたからです。

注目すべきは、額と胸のブローチ(護符)に刻まれた<スカラベ>です。<スカラベ>と言えば、誰しもファーブルの『昆虫記』に登場するタマオシコガネ(糞ころがし)を思い浮かべるのではないでしょうか。<スカラベ>に魅せられその研究に没頭したファーブルはともかく、古代エジプトにおいて何故<スカラベ>が神聖視されるようになったのでしょうか。日本の「糞ころがし」のイメージからは想像もつきません。

有名なツタンカーメンの黄金の玉座の肘掛けのカルトゥーシュ(写真・上)には、<スカラベ>が描かれています。玉座にかぎらず古代エジプトのファラオが身につける装飾品には、すべからく<スカラベ>があしらわれたそうです。太陽に見立てられた大きな糞(球体)を転がす<スカラベ>は、さしずめ、太陽を運ぶ聖なる昆虫という位置づけだったのです。太陽は生命の源であり復活・再生のシンボルですから、<スカラベ>を身につけていれば鬼に金棒です。こうして、<スカラベ>は生命守護に欠かせない存在となったのでしょう。ファラオは太陽神ラーの子とされますから、<スカラベ>を神聖視するのは当然です。

最終日に残された短い自由時間に長男は、大英博物館を最速で見て廻り、「ゲイヤー=アンダーソンの猫」のレプリカをゲットしてくれたようです。かつて、出張で頻繁に訪れていたロンドンとも10年以上ご無沙汰です。そろそろ、大英博物館やナショナル・ギャラリーを訪れる機会を窺わないといけません。