イエス・キリストの降誕祭=クリスマスに比べると、日本における復活祭=イースターの認知度はかなり低いのではないでしょうか。欧米ではイースターの方が遥かに重要視されています。クリスマスと違って、イースターは移動祝祭日です。イースターの2日前の聖金曜日("Good Friday")が祝日にあたります。「春分の日以降最初の満月の次の日曜日」がイースターですから、その前日までの一週間すなわち受難節も年ごとに変わります。
バッハ・コレギウム・ジャパン(BCJ)恒例の受難節コンサート(『マタイ受難曲』BWV244)は聖金曜日と聖土曜日に開催されます。行動制限が撤廃されたせいでしょうか、今年はイースター当日の追加公演が決まっています。去年は聖土曜日に聴いたので今年は初日に会場の東京オペラシティを訪れました。『マタイ受難曲』は18時30分開演、演奏時間は3時間超えです。演者はもとより聴く方にもエネルギーと集中力が必要です。富ヶ谷のフレンチで遅めのランチをしっかり食べて本番に臨みました。写真・下はBCJの公式Twitterから拝借したものです。
会場で買い求めたプログラムの巻頭言で今回がBCJにとって記念すべき100回目の『マタイ受難曲』演奏会だと知りました。マエストロ・鈴木雅明さんが詳らかにした2002年のスペインツアーで次々と降りかかった災難やコロナ禍での苦労話を想像するだけで、長い道程を経て『マタイ受難曲』がBCJにとってかけがえのない存在になったことがよく分かります。マエストロは巻頭言を「生きている限り、この恋人を手放すことはありません」と結んでいます。
エヴァンゲリストのトマス・ホッブス氏のレチタティーヴォに導かれて、あっという間に物語に引きずり込まれました。重厚な低音が魅力のマーティン・へスラー(イエス)も好演でした。サプライズ出演はパイプオルガンの前に現れたのは天使姿の東京少年少女合唱隊。聴くたびに39曲目の「憐れみ給え、わが神よ」に差し掛かると鳥肌が立ってしまいます。埋め込んだ動画はカール・リヒターの名盤から39曲目・ヴァイオリンのオブリガートとアルト(ユリア・ハマリ)の歌唱部分です。声楽だけでなく、2階席左からファゴットやチェロの音色に耳を澄ませました。ひとりひとりが紡ぎ出す器楽演奏と声楽が渾然一体となって、気がつくと、最後の大合唱へと誘われていました。『マタイ受難曲』は聴くたびに新しい感動と発見があります。
バッハ研究の第一人者・故礒山雅(いそやまただし)さんは、カンタータこそバッハの真髄だと述べておられます。100回目の演奏会に立ち会えた余韻に浸りながら、来年の演奏を想像し始めたところです。