昨年5月、公開直後に『トップガン マーヴェリック (Top Gun : Maverick)』を観ようと劇場へ足を運びました。なにしろ前作『トップガン』から36年ぶりの続編ですから、劇場視聴しか考えられません。冒頭からピート・マーヴェリック・ミッチェル海軍大佐(トム・クルーズ)が搭乗する超高速テスト機が登場し、劇場に響き渡る爆音に痺れました。
映画を観た誰もが目を瞠ったのは、36年もの時の移ろいをまったく感じさせないトム・クルーズの若々しい容姿。引き締まったボディや目の耀きは前作当時と比べてもまったく遜色ないのです。撮影中は50代後半、公開時に60歳を迎えたと知って驚きが倍化しました。仏・VOGUE紙によれば、トム・クルーズの食生活はストイックそのもので、専属シェフがヘルシーな料理を作るのだそうです。その上、最新技術を誇る美容医療機器を使ってボディメンテナンスを怠らないのだと云います。続編が観客の期待を裏切らなかったのは、主演トム・クルーズのプロ意識と私生活への並々ならぬこだわりの賜物なのでしょう。続編に向けて心身両面で弛まぬ努力を重ねていたとしか思えません。やはり世界的スターは異次元の存在です。
続編のストーリーは、前作でバディを喪ったマーヴェリックの癒えない心の痛みを軸に展開します。プロットが巧みなのは、トップ・オブ・トップのエリートパイロットが時代の変化に伴い無用の存在になる可能性を示唆している点です。首席で「トップガン」を卒業したアイスマンが組織人として海軍大将に昇りつめる一方、マーヴェリックは繰り返し出世を拒んで現場にこだわり引退の窮地に立たされています。前作でマーヴェリックの年上の恋人役チャーリーを演じたケニー・マクギリスにオファーがなかったのは、加齢で容姿が変わってしまったからだと囁かれています。無理もありません。トム・クルーズの真似をできる映画俳優なんてひと握りに過ぎないのですから。
見所満載で劇場視聴はあっという間でした。今月、劇場公開1年足らずでWOWOWに前作と共に続編がアップされたので満を持して再視聴しました。劇場の総入替え制が定着して久しいため、社会人になって以降、劇場で同じ映画を2度観ることはなくなりました。『トップガン マーヴェリック』に限っては、欲求不満の観客がリピーターと化し幾度となく劇場に通ったとことをメディアがこぞって取り上げました。もう一度、前作から通しで視聴してみて、あらためて『トップガン』の尽きせぬ魅力に気づかされました。随所に前作のエピソードを散りばめ、四半世紀超えの時間の推移を走馬灯のように振り返らせる手法が当たったのだと思います。続編ビーチバレーのシーンで『トップガン』の音声が使われていることに気づいたファンには製作陣も脱帽だったとか。
ミリオタを唸らせたのは、もうひとつの主役戦闘機です。往年のF-14トムキャットでマーヴェリックが死の淵から生還するシーンは、マーヴェリックの人生に重ね合わせて観ると落涙ものです。極めつきは、ラストシーンで恋人のペニーを乗せて飛ぶP-51マスタング(米・ノースアメリカ社製)です。ゼロ戦を凌ぐ性能を発揮した第二次世界大戦後期の最優秀戦闘機を愛撫するように磨くマーヴェリックの姿が印象的です。
36年を経て製作された『トップガン マーヴェリック』は掛け値なしの傑作エンターテイメント映画です。