創業30周年を迎えたフランク・ミューラー|珠玉のタイムピース「トノウ カーベックス グランギシェ」

最近、腕時計をしている若い人をすっかり見かけなくなりました。スマホなどデジタル端末で正確な時間が確認できる現代、若者の腕時計離れが急速に進んでいると見て間違いなさそうです。30代の息子の場合、ビジネスシーンでは腕時計を着用し、プライベートではつけたりつけなかったりという感じです。息子とは真逆に、ファッションアイテムとしての腕時計はむしろ休日に身に着けるものという考え方が昨今のトレンドだそうです。4年前の民間調査によれば、外出の際、腕時計をつける人は全体の43.7%にとどまっています。

機械式時計が好きで、腕時計に大枚をはたいてきた自分には到底理解できない時代の趨勢です。外出する際、自分にかぎって腕時計をしないという選択肢はありません。今や、ビジネスシーンで腕時計をしていなくても、上司に咎められたりすることもないのでしょう。腕時計やネクタイがサラリーマンにとって鎧兜の類いであった時代はとうの昔に終焉を迎えていたのです。

洗練されたデザインと美しいフォルムが特徴のフランク・ミューラーの「トノウ カーベックス グランギシェ」(それぞれ、フランス語で「樽」「湾曲」「大きな窓」を意味します)は、愛用する機械式時計のなかでも、とびきりの逸品です。時の記念日に発行された<THE NIKKEI MAGAZINE STYLE>を読んで、今年、フランク・ミューラーが創業30周年を迎えたことを知りました。時計好きなら知らない人はまずいないトップブランド、フランク・ミューラーがようやく創業30年とは驚きです。最高峰のブランドイメージと短い社歴がどうにもミスマッチだからです。名門ジュネーブ時計学校を最短・首席で卒業したフランク・ミューラーは、ブレゲの再来と言われ天才時計師の名を恣に、1992年に自身の名を冠したブランドを立ち上げます。以来、トゥールビヨンに代表される複雑系機構の時計をはじめ、数々の名品を世に送り出してきました。数あるモデルのなかで、三次元曲線フォルムを構成するトノーカーベックスは創業時に発表された時計ケースの傑作です。美しい立体的な曲線に加え、腕回りにしなやかにフィットする湾曲したケースは、機械式時計愛用者ならどうしたって手に入れたくなる一品です。前述の日経マガジンによると、俳優・唐沢寿明が愛用するのは「カサブランカ」。<限られた時間をどう過ごすか。何に囲まれて生きるか。それを選ぶセンスが人生の価値を決めると思う>とコメントを寄せています。作家・池井戸潤は「トノーカーベックス シークレット アワーズ」を愛用しているそうです。ふたりともほぼ同世代、同好の士に出会ったような気がしてなりません。

珠玉のマイタイムピース「トノウ カーベックス グランギシェ」の文字盤には繊細極まるギョーシェ彫りが施され、インデックスには独特のビザン数字、針には夜光塗料が塗られています。視認性抜群で優美なビザン数字は、フランク・ミューラーらしい飽くなきデザイン追求の賜物です。グランギシェ=大きな窓で表示される二桁の日付は、2枚の回転ディスクを並列に重ね合わせているため、数字は独立して動きます。

名門パテック フィリップの普遍のキャッチコピーは「親から子へ、子から孫へ」。果たして、愛用するパテックやフランク・ミューラーのタイムピースは世代を超えて受け継がれていくものでしょうか。時計はただ時を知るためだけのモノに非ず。メンテしながら親の時計を愛用してくれたらと願うのは時代錯誤だと分かっていても、黙ってはいられないのです。