「ジレットモデル」の罠~髭剃りの替え刃だけではなかった~

ジレットモデル」はれっきとしたマーケティング用語です。この言葉を耳にしたことがなくても、誰しも普段の購買生活において、この「ジレットモデル」の罠に嵌っているのです。「ジレット」でピーンと来た方はセンス抜群です。シェーバーで有名な「ジレット」は世界最大の一般消費財メーカーP&Gのブランドです。高級そうな髭剃り(ホルダー)に替え刃が2個ついた、売れ筋の<ジレット フュージョン5+1>セットが2980円です。ところが、ホルダー抜きの替え刃は8個入りで2880円ですから、替え刃1個当たり360円で販売されていることになります。半永久的に使えそうなホルダーの単価は2260円と格安ですが、替え刃はお高い印象を拭えません。タイプによっては、ホルダーがタダ同然の商品も存在します。ここから明らかなように、本体部分(ホルダー)を安く提供し、付属品の替え刃で稼ぐというのが「ジレットモデル」だということになります。

もうひとつ、代表的な「ジレットモデル」を挙げるとすれば、プリンターとインクジェットの組み合わせです。キャノンの売れ筋プリンターPIXUSであれば、1万円ちょっとで購入できますが、ご存じのように詰め替え用のインクは3本セットで3000円近くしますから、消耗品で稼ごうという魂胆は明らかです。もう少し視野を拡げれば、スマホ購入時の本体無料を謳う一方、使用期間を縛って使用料(サービス)で稼ぐかつてのスマホビジネスも「ジレットモデル」の一種です。ただ、最近はキャノンと競合するエプソンが大容量のインクタンクを導入し、こうしたビジネスモデルを転換する動きも見られます。

要は「ジレットモデル」であることを承知の上で買うことです。いいものを長く使いたいという観点から、自宅では20年以上ミッションスタイルのソファを愛用しています。毎日使っていればファブリックが時間の経過と共にくたびれてきますので、10年単位で張替えが必要になってきます。そろそろ張替え時期かと思い、見積もりを取ってみたところ、当初購入価格に匹敵するくらいの費用が掛かることが分かって愕然としているところです。10年前の張替えのとき、それ位の金額を支払ったはずなのに、すっぽり記憶から抜け落ちていました。ソファの張替えというメンテナンス費用を購入時に意識していたかというとまったくブラインドでした。ともすれば家具、電化製品、ピアノのような耐久消費財については、メンテナンス費用という視点が欠落しがちです。最近は、腕のいい職人さん不足で、手仕事を伴うメンテナンス費用は年々高騰すると覚悟しておいた方が良さそうです。