最近、多少雪が残っていても人気(ひとけ)の少ない早春や晩秋の登山に嵌っています。オフシーズンならではの幾つかのメリットがあります。夏場、水場の少ない山だと最低2ℓは水を携行する必要に迫られますが、気温の低い早春なら半分で足りてしまいます。最大のメリットは、バスや電車など公共交通機関の混雑が大幅に緩和されることです。山での渋滞が避けられるのは言うまでもありません。今回、週末運行の「ホリデー快速おくたま1号」(新宿6:46発・奥多摩8:22着)に最寄駅から乗車したのですが、余裕で着席できました。ハイシーズンなら満席で奥多摩駅までの約1時間30分立ちっ放しを覚悟しなければならないところです。さらに、奥多摩駅からバスに乗り継ぐので重たいザックを背負ったまま半時くらいは辛抱が続きます。
定番の周回コースを選択し、奥多摩駅バス停を起点に奥多摩湖バス停まで15分ほど西東京バスで移動します。登山口は「東京の水がめ」と呼ばれる小河内ダム(おごうちだむ)の貯水池=奥多摩湖の堰堤を渡って左側にあります。いきなり急登が現れ、汗を流しつつサス沢山(940m)まで約1時間、我慢のしどころです。サス沢山には奥多摩湖を見下ろす展望台があって、ここでひと息つきました。この日は気温も20℃近くまで上昇し、アウターはザックにしまい込んでリスタートです。新緑の頃なら、ここから御前山の支峰・惣岳山(1341m)へ連なる大ブナ屋根がさぞ美しいのでしょう。落葉したブナ林を軽快に進み、登山口から3時間弱で御前山(1405m・花の百名山)にたどり着きました。山頂手前はアイスバーンでチェーンスパイクを携行しない家族連れが悪戦苦闘していました。残雪期は着脱の容易なチェーンスパイクをザックのボトムコンパートメントに忘れずに入れておくべきです。
山頂はかなり泥濘んでいて、登山者は一様に周囲のベンチで昼食休憩を取っていました。2016年8月11日の新たな国民の祝日「山の日」誕生を記念して、雲取山をはじめ奥多摩を代表する山々で山頂標識が一新され、御前山の山頂標識も立派な御影石製のものに一変していました。
山頂からトチノキ広場まで日陰は随所でアイスバーンになっていたので、慎重な下山を心掛けました。トチノキ広場から終点の境橋バス停まで1時間余り、舗装された管理道路を進みます。途中、宿泊施設栃寄森の家があるくらいで、とても退屈で単調な道程となります。栃寄大滝経由で境橋バス停(実際、橋の上にバス停があって、対向車線側が奥多摩駅方面ですのでお間違いなく)へ抜ける山道は、木橋崩落のため、ずいぶん長いこと通行禁止になっているようです。これだけは残念な瑕瑾でした。
三頭山、大岳山に続き、御前山に登頂したのでこれで奥多摩三山を制覇したことになります。御前山を侮る勿れ、奥多摩三山というだけあって標高差900mは伊達ではありません。御前山は日本山岳ガイド協会の認定ガイドが選定した『日本百低山』(幻冬舎刊)に掲載されていますが、標高の低い名山の例外だと申し上げておきます。次回は春の息吹を感じながら、カタクリが開花する4月下旬以降に訪れたいものです。