「大山詣り」で思わぬ受難~ヤマビルの住処(大山桜コース)に要注意~

登山を始めたばかりのSさんを伴って新緑の「大山詣り」に出掛けました。都民にとって手軽な登山と言えば高尾山ですが、神奈川県伊勢原市にある大山(1252m)も高尾山に比肩する人気の山なのです。高尾山(3つ星)には及びませんが、大山阿夫利神社からの眺望が「ミシュラン・グリーンガイド・ジャポン(改訂第4版)」の2つ星(「寄り道する価値がある」)、大山が1つ星(「興味深い」)を獲得しています。高尾山は都心からのアクセスが良好な上に山頂までのメインルートが殆ど舗装されているので、スニーカーやヒール履きでも登れてしまいます。そのため、ハイシーズンの山頂の混雑ぶりは新宿や渋谷の繁華街同然で、げんなりされた経験をお持ちの方も多いかと思います。その点、大山はケーブルカーを利用したとしても、山頂にたどりつくには急な階段や延々と続く石段を克服しなければなりません。下調べもしないで安易に臨むと途中でリタイアを余儀なくされる可能性大なのです。現に今回も途中で引き返すご婦人グループを見かけました。下社左手から本坂を上る途中、16丁目あたりで何丁目まであるのかしらと呟く女性グループに「28丁目ですよ」と囁くと吃驚されていました。

お江戸の人口が100万だった頃、年間20万人が「大山詣り」をしたそうです。江戸時代、ひとりで遠出し参詣するのは難行でしたから「大山講」が組織されました。そのため、こま参道と呼ばれる参詣本道が整備され、参道沿いには今も土産物屋、茶屋、旅館が軒を連ねています。大山と富士山のご祭神は父娘の関係にあるので、古来より大山に登らば富士山に登れ、富士山に登らば大山に登れと「両詣り」が盛んだったようです。

小田急伊勢原駅北口にある公営駐車場にクルマを駐車して、バスで大山小学校バス停まで移動、大山桜コースから旧参道へ進むことに。大山小学校の裏手の獣害防護柵(写真のようにビニル紐で雑に結わえられ開けるのが大変でした)を抜け、30分ほど山道を歩いたあたりで疲れたSさんがベンチに腰を下ろし休憩。悲劇はその直後に訪れました。Sさんの耳をつんざくような悲鳴で事態を呑み込みました。彼女のズボンや登山靴に体長数センチほどのヤマビルが付着していたのです。先月、鍋割山下山中にヤマビル注意の標識を見たばかりですが、まさか4月から活動期にあるとは全くのブラインドでした。ハンドタオルで一匹ずつ取り除くのですが、すぐに別のヤマビルが集ってきます。その数、十数匹。ヤマビルはシューレースの隙間にまで入り込んで除去するのにかなり手間取りました。半狂乱状態のSさんをなんとか落ち着かせ、1時間あまりかけて阿夫利神社社務局近くまで降下して、念のため、登山靴を脱いでもらい確認すると、靴下にまとわりつくヤマビルが数匹。1ヵ所脛を吸血されていたので、ザックからファーストエイド・キットを取り出し、以下のように処置しました。1)で血と共に「ヒルジン」も洗い流します。

1)ナルゲンボトルの水で傷口を洗い流し(ヤマビルの吐き出す「ヒルジン」という物質のせいで出血はなかなか止まりません)ウェットテイッシュで拭く

2)アルコール綿で傷口を消毒・メンソレータム軟膏を塗布(虫さされ用軟膏が望ましい)

3)傷口にバンドエイド貼付


(出典:神奈川県ホームページ)

こんなにファーストエイド・キットが活躍したのは初めての経験です。こま参道の手前にある観光案内所のご主人曰く、シカの蹄などに付着してヤマビルは行動半径を拡大するのだそうです。観光案内所のご主人がヒル除けスプレーをSさんの登山靴に吹きかけてくれました。自販機で買ったエナジードリンクを差し出すと、Sさんはようやく人心地がついたのか、山頂をめざすファイトを取り戻してくれました。手っ取り早いヤマビル対策は、登山靴に粗塩を塗り込んでおき、塩を持参すること。塩をかければヤマビルはすぐ取れるようです。これからはザックに塩水スプレーを忍ばせておいて撃退しようと思います。