<中谷美紀>という生き方

今日の<あさイチのプレミアムトーク>に出演したのは中谷美紀さん。リアルタイムで視聴できなかったので、夕方、NHK+の見逃し配信でキャッチアップしたところです。2018年11月にウィーンフィル管弦楽団ビオラ奏者ティロ・フェヒナー氏と結婚した中谷さんは、現在、オーストリアと日本を行き来する生活を送っています。番組は、ふたりの住まいのあるザルツブルクの暮らしにスポットを当て、現地の生活に溶け込もうと奮闘する等身大の中谷さんを追っかけます。

中谷美紀さんを素敵な女優さんだと思うようになったきっかけは、2009年に放送されたNHKの『ドラマスペシャル・白洲次郎』でした。白洲次郎伊勢谷友介)の妻正子を演じた中谷さんの凛とした佇まいにすっかり魅せられ、以来、ずっと気になる存在です。白洲正子になり切るために1年間も能の稽古に励んだという役者魂は、彼女を端的に表すエピソードのひとつです。英語やフランス語を流暢に操り、ドイツ人と結婚された中谷さんは、一見、海外志向の強い方のようにも映りますが、どうして和装姿がとてもお似合いの正真正銘の大和撫子なのです。態度や表情が穏やかで、言葉遣いの美しさをMCの鈴木菜穂子アナが絶賛したほどです(字もとても美しいのだそうです)。

以前、日曜美術館で瀬戸内の直島の旅を取り上げたときの案内役が中谷さんでした。言葉と言葉の間(余白)をとても大切にされている印象があります。容姿端麗なだけでなく、豊かな感性(や美意識)と知性が見事にバランスしているのが中谷美紀さんの大きな魅力です。クラシック音楽(番組では名ピアニストにして指揮者のバレンボイムに遭遇した話はスルーされてしまいました)も含めたアート全般にも明るくて、番組でモロッコを舞台にした映画が紹介されると、「(フェルメールの)陰翳のようですね」と当意即妙の受け答えをなさいます。一番感心したのは、ご自身がヒロインを務める近日公開の映画「総理の夫」に触れ、役作りのために、メルケル独首相やフォンデアライエン欧州委員会委員長、ニュージーランドのアーダーン首相など諸外国の女性リーダーたちの姿やスピーチなどを参考にさせてもらったと述べ、こんな分析まで披露されたこと。

<彼女たちの共通点は、アンガーマネジメントがしっかりでき、女性であるが故に受けた不当な扱いも、憤りをそのまま見せるのではなく、むしろ笑顔で返すぐらいの懐の大きさを見せていたこと。スピーチの際も、声を張り上げるのではなく、淡々と時には温かく冷静な視点で発言していた>

番宣に際して、これほど聡明なコメントをされた女優を他に知りません。夫のティロさんから”Life is too short.(人生はあまりに短い)”と言われて、目から鱗だったと語る中谷さんは、現地暮らしの悩み(虫との闘い)とも上手く付き合いながら、日々、成長なさっているようです。ひとり娘のためにとドイツ語を習い、短期間で日常生活に不自由しないまでに上達されているとは驚きです。精神的にも経済的にも自立したふたりの国境を超えた結婚生活は、ひとつの理想形ではないでしょうか。

半年以上前に積読にしたままの中谷さんの書き下ろし文庫『オーストリア滞在記』が見当たりません。これから書斎を捜索です。