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「鈴木藏の志野」展と松尾芭蕉の「不易流行」

展覧会の会場となる菊池寛実記念智美術館は、現代陶芸を中心に優れた造形作品を展示する私設美術館です。都心にありながら、喧騒から一線を画した静謐な空間で定期的に上質な展覧会を開催しています。2年前の「野蛮と洗練 加守田章二の陶芸」展以来の訪問になります。松涛美術館のように建物全体がアートなので、訪れるときはいつも気持ちが昂ります。

鈴木藏(おさむ)(1934~)は、現代志野の第一人者にして人間国宝です。志野焼の歴史は安土桃山時代に遡ります。おおらかで柔らかい素地(百草土)に長石の白釉を合わせると温かみのある白が生まれ、釉の薄い部分に鮮やかな緋色が際立ちます。古志野の陶片を岐阜県可児市で発見した荒川豊蔵は、従来の瀬戸説を覆し、本格的に志野・瀬戸黒・黄瀬戸の再現に取り組みます。江戸期に途絶えた志野を、荒川豊蔵が試行錯誤を繰り返しながら現代に甦らせたわけです。写真(下)は、わずか2点しかない純国産国宝茶碗(曜変天目三椀のように中国や朝鮮から伝来したものがほかに6点、国宝に指定されています)のひとつ、志野焼銘「卯花墻」(三井記念美術館蔵)です。

鈴木藏は、志野の系譜を継ぐ一方で、伝統的な穴窯や登窯に頼らず独自の改良を加えたガス窯による焼成を手掛け、今も窯や焼成方法について創意工夫を重ねているそうです。出品された近作茶碗のなかには、伝統的な形状の茶碗のほかに、半筒型やタタラで背を高くした深筒型が独特の存在感を放っていました。口縁のつくりも自在に操り、進取の気風を感じさせます。なかでも、深みのある緋色と白のコントラストが鮮烈な志野茶碗(図録No24)に惹かれました。

展覧会のサブタイトルは、松尾芭蕉の「笈の小文」の一節<造化(ぞうか)にしたがひて、四時(しじ)を友とす>。意訳すれば、自然のままに従って、四季の移ろいを友とするということでしょうか。芭蕉の弟子、向井去来はその蕉風俳諧論『去来抄』のなかで、<不易を知らざれば基立ちがたく、流行を知らざれば風新ならず>と書き記しています。時が経とうとも変わらない本質を見極めつつ、日々刻々移りゆくもの、変えていかねばならないものを採り入れる、芭蕉俳諧の「不易流行」は鈴木藏の作陶スタイルにぴたりと重なります。

作品世界と気脈を通じる書3点(須田剋太西田幾多郎熊谷守一)を選んだ主催者の研ぎ澄まされた審美眼も讃えておきたいと思います。会期は2021年3月21日(日)まで。