日本の風土の似つかわしくない絢爛豪華な美術館が関東と関西にひとつずつ存在します。ひとつは滋賀県甲賀市にあるMIHO MUSEUM、設計したのはルーブル・ピラミッドも手掛けたI・M・ペイです。もうひとつは今回ご紹介する静岡県熱海市のMOA美術館です。このふたつの美術館には共通点がいくつもあります。先見を持たずに訪れると、誰しも先ず施設の豪華さに圧倒されます。都内では電鉄会社の創業者一族が開設した根津美術館や五島美術館が規模やコレクションの質において他を凌駕していますが、MIHOやMOAの資力は公益企業の比ではないように思います。いずれも雄大な自然景観を抱く広大な敷地を有しているからです。そして、美術館の運営を行うのは公益財団法人ですが、いずれも宗教法人が背後に存在します。宗教法人が実質的に運営する美術館の実相に興味は尽きませんが、今回は割愛することにします。
湯河原の帰路、2017年2月にリニューアルオープンしたばかりのMOA美術館を訪れました。開催中の展覧会は「琳派の美と光琳茶会の軌跡」でした(〜2017/6/6)。当館の目玉、尾形光琳の国宝「紅白梅図屏風」は、今回残念なことに、展示されていませんでした。代わりに、仁清の国宝「色絵藤花文茶壺」(写真右)を、黒漆喰の分厚い壁で四方を囲まれた空間で鑑賞することができました。ガラスケースだと照明が映り込んだりして往々にして鑑賞の妨げになりますが、背景色を工夫することでこの点がかなり改善したように感じられます。プライベートコレクションなど一部を除いて、仁清の国宝をはじめ貴重な文化財も写真撮影OKということで、新しい環境設定の下、気に入った作品を幾つか写真撮影させて貰いました。映り込みが抑えられていることが分かります。
くだんの企画展を見終わると昼食の頃合いでした。併設している見事な日本庭園を散策した後、復元された光琳屋敷の一角にあるお茶屋さんで竹皮おむすびを頂きました。 地産地消、自然農法産野菜にこだわった和食が提供されているのだそうです。見事な竹林が美術館の東側に見えましたから、春になると野趣に富んだ筍料理も期待できそうです。カフェも充実していて、the caféの全面ガラス越しに一望できる相模湾の景観は圧巻です。とても寛げる空間ですのでこのロビーフロアでオーガニックコーヒーを飲まない手はありません。
車でMOA美術館にアプローチすると山頂の駐車場を経由して美術館3Fの入口から入場することになります。一方、グランドフロア正面玄関から入場すると長いエスカレーターを経て最初に円形ホールに到着します。MOA美術館の特筆すべきアート空間は円形ホールで繰り広げられる万華鏡です。プロジェクション・マッピングと言い換えた方が分かりやすいかも知れません。世界最大の万華鏡フェスティバルで2年連続グランプリを獲得したという依田満・百合子夫妻の万華鏡をBGMと共に安楽椅子に座って愉しむことができます。映像はリアルタイムで七変化しますので、文字通り一期一会、見ていて飽きることがありません。
丸1日費やす価値のあるMOA美術館、インテリアも付帯施設もグレードアップしたのでお勧めです。