映画『パリよ、永遠に』~パリの救世主はコルティッツ将軍なのか?~

いつ訪れても美しいパリの街並み。ところが、1800年代初頭のパリは、家畜が放し飼いにされ、垂れ流された糞尿で異臭さえ漂う不衛生この上ない都市でした。そんな劣悪な都市を今日の姿に変えたのは、時の皇帝ナポレオン3世オスマン知事のふたりです。「オスマンのパリ改造計画」(1853~1870年)として知られるこの国家的事業に費やされた年月は、20年近くにも及びました。

世界に誇るべきその国家的偉業が、第二次大戦末期に壊滅の危機に晒されたことがあります。1966年公開のルネ・クレマン監督の『パリは燃えているか』は、最終的にヒットラーの命に背いてパリを救ったとされる、ドイツ国防軍歩兵大将にしてパリ軍事総督ディートリヒ・フォン・コルティッツにスポットを当てながら、史実に沿ってパリが解放された経緯を追いかけます。

上映時間が約3時間に及ぶ『パリよ、永遠に』(2014年)に対して、本作はドイツ軍最高司令部の置かれたホテル「ル・ムーリス(Le Meurice)」を舞台に、専ら(パリ徹底破壊の)翻意を迫る中立国のスウェーデン総領事ノルドリンクとコルティッツ将軍との緊迫した遣り取りを描きます。事実上、家族を人質に取られた将軍の苦衷に理解を示しながらも、ノルドリンクは粘り強く愛するパリの街を救おうとコルティッツ将軍の説得に努めます。

コルティッツ将軍「もし君が私の立場だったら、いったいどうするのかね」

ノルドリンク「分からない・・・」

ときおりの沈黙を挟みながら、延々と平行線が続くように見えるふたりの会話。砲弾飛び交う凄惨な戦場シーンこそありませんが、それに匹敵する険しい空気がふたりを支配します。観客(視聴者)は今もパリが健在なことを知っています。パリの運命を握ったコルティッツ将軍が何を思い何を考え究極の選択に至ったのか、その胸中の変化は観客が想像するほかありません。さながら心理サスペンスにも似た展開だと申し上げておきます。冗長との批判は失当です。パリを破壊するだけの兵力を喪失していたとされるコルティッツ将軍ですが、窮余の選択とはいえ、正しく理性的選択をした敗軍の将として讃えられて然るべきだと思います。

映画ではコルティッツ将軍はノルドリンクとフランス語で会話していますが、史実はどうなのでしょうか?強く印象に残ったのは、コルティッツ将軍が本国から伝令でやって来たSS連絡将校に露骨に嫌悪の表情を露わにしたシーンです。国防軍とSSの対立やコルティッツ将軍の秘めたるパリへの愛着がコルティッツ将軍を突き動かしたようにも映ります。地味な戦争映画ではありながら、観るべき価値のある佳作ではないでしょうか。