NHKスペシャルシリーズ「大江戸」は見逃せない!

NHKは実にいい番組を作ってくれるものだと改めて唸ってしまいました。新シリーズの放映スケジュールは以下のとおりです。

4/29 9:00〜9:55 「第1集 世界最大!!サムライが築いた“水の都”」
5/27 9:00〜9:49 「第2集 驚異の成長!!あきんどが花開かせた“商都”」
7/1  9:00〜9:49 「第3集 不屈の復興!!町人が闘った“大火の都”」

第1集は、小田原攻めの陣中で秀吉から国替えを命じられた徳川家康が、沼地だった関八州をどのように世界一の都市に変貌させたかに焦点を当てています。美田と沼地を交換させられたに等しい家康が憤懣やるかたない家臣を宥め、天下普請に邁進することになります。そのあたりの事情は、門井慶喜さんの歴史小説『家康、江戸を建てる』に詳しく、本シリーズの副読本としてお薦めです。度重なる洪水の原因だった河川の流れを変え、貨幣制度を整え、上水道を引き、石垣を積み、天守を建てる。それが、家康が目指した江戸大改造の方法論でした。

番組冒頭、オーストリアで見つかったという江戸末期の鮮やかなガラス原板写真270枚に視聴者は度肝を抜かれます。150年前来日したふたりのオーストリア人写真家が撮影したものだそうです。番組では詳しい発見の経緯は省略されていますが、今年2月に洋泉社から発見された写真を所収した『高精細画像で甦る 150年前の幕末・明治初期日本』が出版されています。日本橋をはじめ、大名屋敷が櫛比の如く林立する景色は圧巻です。当時の市中の人口密度の高さが容易に想像できます。

わずか6万足らずだった人口が17世紀には100万人に到達したといいますから、家康に始まる徳川将軍家の手腕は絶大です。当時のパリやロンドンの人口はその半分程度に過ぎませんでした。巨大な都市創造プロジェクトを成功に導いたキーワードは3つ、「濠」、「石垣」、「水道ネットワーク」です。現在の皇居あたりもかつては海、埋め立てを重ねながら濠が螺旋を描くように拡大していきます。江戸初期の都市計画図も見つかって、時を経るに従い都市基盤を広げていく緻密な構想が明らかにされます。次に「石垣」、全国の大名家が競って濠を隔てた城郭を築くための石垣造りに従事させられます。石垣に今も残る刻印を調べると40以上にものぼる大名家が普請に参加していたことが分かります。伊豆から巨石を切り出し運搬するには危険が伴い、今も海中には運搬船と共に沈んだと思われる屋根瓦や巨石が眠っています。

最も注目したのは、伊奈忠治・忠克親子が生涯を賭して挑んだ上水道建設事業です。爆発的に膨張する江戸の人口を支えるには飲料水の確保が急務、幕府重鎮からは伊奈親子に矢の催促、しかし起伏の激しい土地に上水を設けるのは容易ではありませんでした。水喰土(みずくらいど)と呼ばれる礫岩地層にぶちあたると、水はけがよすぎて折角引いた上水が忽ち消失してしまいます。全長43キロ弱の上水をわずか8ヶ月の工期で完成させたことばかりに目が行って、これまで建設工事の障害となった地層や土地の起伏には思いが至りませんでした。

玉川上水の近くに長年住みながら、上水建設が難工事を極めた理由を深く理解していなかったことになります。全長43キロ弱の上水の高低差はわずかに92メートル、100メートル進んで僅か20センチしか水勾配がありません。「奇蹟の勾配」実現の背後に知られざる労苦があったことを知り、前述の門井慶喜さんが武蔵野井の頭を「東京の地形的良心」に喩えた理由がようやく分かりました。水が近くにある暮らしを創造してくれた先人の叡智に心から感謝です。