三越日本橋本店で開催中の北大路魯山人展に足を運びました。会期(20/2/5~2/17)が2週間足らずなので、魯山人ファンはお見逃しなきよう。魯山人は1959年12月に他界しているので昨年末が没後60年目に当たります。先月は東武百貨店で展覧会兼即売会が開催されていて、来場者で大変賑わっていました。
生前はその鋭い舌鋒と傲岸不遜な態度とが相俟って、多彩な創作活動に対しても毀誉褒貶は相半ばしたと言います。本歌取り専門という批判もよく耳にします。にもかかわらず、遺された膨大な作品に対する人気と評価は、死後衰えるどころか、昂まるばかりのようです。百貨店の美術担当曰く、魯山人を看板にすると集客力が断然違ってくるのだそうです。
約80点に及ぶ優品を出展したのは「何必館・京都現代美術館」。1981年に開館した京都・祇園の中心部に所在する私設美術館です。日本人作家だけではなく、写真家のロベール・ドアノーや彫刻家ジャコモ・マンズーなどの作品も所蔵しており、魅力溢れる美術館なのです。何必館の創設者であり現館長の梶川芳友氏(1941年生)が50年以上かけて収集したという魯山人作品は、いずれも折り紙つきの名品ばかり。
今回、目を瞠ったのは魯山人作品を引き立てるべくさりげなく用意された調度品や生花の類い。脇役どころか、作品の一部にさえなっていました。代表作の「つばき鉢」や「雲錦鉢」の下には、稲葉山城や法隆寺夢殿の古材を利用した板盤が敷かれ、花器には絶妙な枝ぶりの山帰来(サンキライ)が抛げ込まれていました。魯山人の陶磁器には山野草がお似合いです。「双魚絵平鉢」に張られた水面にはシダが二葉浮かび、双魚が生き生きと戯れているように見えます。「器は料理の着物」だという魯山人の言葉の如く、魯山人作品を最も美しく見せる設えがあるはずだという梶川氏の信念が結実した誠に素晴らしい展覧会でした。
一番響いた魯山人の言葉は「坐辺師友」。自分の身辺にあるものこそ己の師、自らの眼を鍛えるために美しいものを常に身辺に置けというメッセージです。敷衍すれば、美は生活のなかで具体化されてこそ意味があるということです。
「悪評多かれど、自然美にひれ伏した心優しい謙虚な人」という魯山人像が、案外的を得ているような気がします。絶筆は「聴雪(ちょうせつ)」。雪の気配を心奥で感じなさいということでしょうか。生家のあった洛北上賀茂の厳冬の到来を思い浮かべながらひと息に書いたのでしょう。ぼんやり絶筆を眺めていたら、映画『日日是好日』(2018年公開)の終盤の掛け軸「聴雨(ちょうう)」のシーンと脳裡で重なりました。この映画にはテロップで二十四節気が現れます。1年を大雑把に4つの季節に分けるだけでなく、さらに6つに分けたのが二十四節気。魯山人は季節の移り変わりを肌で感じ乍ら創作に勤しんでいたに違いありません。「聴雪」という絶筆には、微かな季節の移ろいに込める思いが凝縮しているように感じられてなりません。