東京初開催の「エルメスの手しごと」展@表参道ヒルズ〜パリから職人がやってきた〜

フランス系銀行傘下の証券会社に勤務していた折り、年に数回はパリ出張がありました。エアチケットの手配をする秘書からスケジュールを聞きつけた同僚(もちろんキャリアウーマンです)から、しばしばエルメスでの買い物を仰せつかりました。というのも、パリ本社から徒歩圏にフォーブールサントノレ本店があったからです。ファッション雑誌のコピーまで渡されて、スカーフやバングルの新着商品を物色したものです。なかには兵がいて、バーキンを頼まれたこともありました、しかし、バーキンだけは90年代でも品薄で3年待ちと云われた記憶があります。


そんな屈指の高級ブランド、エルメスが「エルメスの手しごと」展を東京で初開催すると知って、週末、会場の表参道ヒルズに出掛けました。会場内は11の職人ブースに区切られていて、エルメスが手掛ける様々な製品の制作過程を間近で見ることができます。ご参考のために、どんな職人さんが実演してくれるのかをご紹介しておきます。会場内は来場者でごった返しているので、これから行かれるという方はあらかじめ見学したい職人ブースを決めて臨んだ方が良さそうです。

・クリスタル職人 ・皮革職人 ・手袋職人 ・ネクタイ縫製職人 ・縁かがり職人
シルクスクリーンプリント職人 ・シルクスクリーン製版職人 ・磁器絵付け職人
・時計職人 ・鞍職人 ・石留め職人


エルメスといえば皮革製品。手袋職人さんが染色されたカーフを伸ばす手作業を見学させてもらいました。専門的な作業も逐一通訳を通して丁寧に解説が受けられます。木型のサイズに合うように丹念にパイ生地を伸ばすような手作業(「デベサージュ」と呼ばれます)が繰り返されます。本国から持ち込んだというテーブルの端が丸くなっているのも、作業効率を考えてのことなのだそうです。縫製も手作業で行なわれ、指先まで不具合がないかどうか丁寧に点検作業が行われます。少しでも難が見つかった手袋は売り物にならないので、クッション材にされたりお針子さんの練習に供されたりするのだそうです。エルメスにアウトレットが存在しないのは、そもそもセカンドラインが存在しないからなのです。気の遠くなるような手間暇をかけて完成した左右の手袋を一組にすることを「マリアージュ」と呼ぶのだそうです。完成品にはサイズのほかに管理番号と職人番号が刻まれます。ちなみにこの職人さんの番号は1番、「自分が1番上手いわけではないのだが・・・」とどこまでも控えめな方でした。

徹底的な品質管理にこだわるエルメスの制作過程の一端を垣間見ることができるまたとない機会でした。高級素材の皮を革にする工程には職人たちの途轍もない労力が注がれています。エルメスグッズが高価な理由も分かりたくはないのですが・・・妙に納得させられたような気がしました。その瞬間、バーキンブラックトゴを所有する家人が勝ち誇ったように微笑んだ気配がしたのは錯覚でしょうか。耐久性に優れアフターフォローも万全な一生モノのエルメスバッグを手に入れたいというマダムの欲望はこれからも尽きることはないのでしょう。