隠れた秀作・NHK連続ドラマ「これは経費で落ちません!」

2017年に放送された NHK 連続ドラマ「ツバキ文具店〜鎌倉代書屋物語〜」(全8回)は、手っ取り早い通信手段であるメールやLINEが隆盛の今日、手紙の奥深い魅力を再発見させてくれる滋味溢れる内容でした。視聴率は平均で5%後半。民放の人気ドラマに比べるとかなり見劣りしますが、実質はシーズンでピカイチだったと記憶しています。

好演だった多部未華子さんが今回のドラマでも主演を務めています。青木裕子さんの累計50万部を超える同名小説が原作です。各回、期待を裏切らない出来栄えで感心しきりなのです。サラリーマンやOLであれば、誰しも心当たりがありそうな経費精算をめぐる会社内部の軋轢やトラブルを扱っています。地味で物静かな典型的な経理部女子社員(森若沙名子役:以下「森若さん」)を、多部未華子さんが今回も好演しています。大雑把な営業部員や経理部を欺こうとする手合いを相手に、経理部員はそのプロフェッショナルスキルと胸に秘めたプライドを武器にして、次々と経費精算に隠れた真相を明らかにしていきます。数字はいつのまにか雄弁に真実をあぶり出していくのです。単に不正が暴かれるわけではなく、毎回、心温まるヒューマンタッチの結末が用意されています。

第6話ではベッキーさんが美人秘書として登場、見事なヒール役に仰天させられました。私生活のスキャンダルを逆手にとったような怪演ぶりはネットでもずいぶん話題になりました。回を追うごとにプロットに工夫が凝らされていきます、際立った個性があるわけでもない製造メーカーの経理部を舞台に、こんなに豊かなドラマを創り上げるとは見事な手腕です。

第7話では、20年連続でマイスター表彰を受ける練達のベテラン石鹸職人が主人公。若い女性社員同伴で表彰式出席のため上京したカリスマ職人の一挙手一投足に、周囲は驚きを禁じ得ません。レジェンドと実像のギャップが大きすぎたからです。カリスマ職人が抱える秘めたる悩みに気づいた森若さんは、カリスマ職人に体当たりで、疑問をぶつけます。面倒なことに巻き込まれそうなときは、内なる声が<ウサギを追うな>と警鐘を鳴らしますが、森若さんは敢えて火中の栗を拾い、どんな相手にも怯まず自分の言葉で意を尽くします。森若さんの見事な推理に、カリスマ職人はとうとう本音を洩らして、思わぬ結末が訪れます。

経理部長の吹越満さんを筆頭に、森若さんの同僚経理部員平山浩行さん、後輩の伊藤沙莉さんが役にぴったり嵌まっています。今夏シーズンでは「ノーサイド・ゲーム」除けば、民放ドラマはいずれも内実においてNHKの後塵を拝した格好です。足元6%前後の視聴率ですが、もっと評価されていい良質のドラマだと思います。小川糸さんの『ツバキ文具店』同様、原作の味わいをドラマ(映像)で見事なまでに再現してくれました。