新聞のヘッドラインに目を奪われると本質を見誤ることがあります。今年から5年間で日本政府が300人のシリア難民を受け入れるという最新記事をよく読むと、すでに日本で学んでいる留学生やその家族を内乱の続くシリアへ帰国させないという措置であることに気づかされます。人道的見地に立てば至極当然の判断であって驚くに値しません。定住している事実状態を容認するに過ぎない政府発表に騙されてはいけません。さらに、政府がJICAの技術協力制度を活用して年20人の留学生を受け入れるという措置も、すでにレバノンとヨルダンに逃れたシリア難民を受け入れるだけのことです。中東シリアから遠く離れた日本にこうした「第三国定住」制度を活用するしか選択肢がないというのであれば、やはり受入れ規模の拡大を目指すべきです。人口わずか800万人余りのスイスでさえこれまで6700人も受け入れててきたのですから。
保護主義に傾く欧州各国のなかで圧倒的な数のシリア難民を受け入れてきたのはドイツです。メルケル首相はそのために政治的窮地に立たされています。フランスでは極右政党である国民戦線のマリーヌ・ルペン党首が存在感を強めています。トランプ大統領を支持する動きにシンクロする昨今のきな臭い欧州情勢に鑑み、日本政府は人道的支援にもっと積極的になつていいはずです。トランプ大統領誕生以前の同盟国米国は、6万人以上のシリア難民を受け入れてきたといいます。
11日から「海は燃えている〜イタリア最南端の小さな島〜」という映画が、Bunkamueraル・シネマで公開されます。人口わずか500人の小さなランペドゥーサ島にここ20年間で約40万人の難民が上陸しているという驚愕の事実に基づいて制作された作品です。世界のそこかしこで壁を築いて難民の受け入れを排除する動きが加速するなか、島民はずっと以前から毎年数万人もの難民を受け入れてきたというのです。島民が普段の暮らしをするその傍らで、上陸した難民が島内の抑留センターからひっそりとイタリア本土やシチリアへと送り込まれていきます。遠い日本からは決して見えてこない「難民」が直面する過酷な現実を描いたこの作品は、2016年度ベルリン国際映画祭で金熊賞(グランプリ)を受賞しています。
平和な国に生きる我々の頼りない想像力では喚起すらできない「難民」が抱える現実が厳然と存在し、その状況は今悪化の一途を辿っています。経済的支援も人道的支援も満足にできないこの国の住人は、せめてこの映画でも見て「難民」問題とどう向き合うべきかを考える契機にすべきではないか・・・そんな思いを強くした昨今のシリア難民受け入れ報道でした。