干し柿の王様「堂上蜂屋柿」を賞味する

年初に中学時代の恩師(岐阜市内在住)と久しぶりに歓談する機会がありました。別れ際に、恩師からお土産にと手渡されたのが自家製の干し柿でした。干し柿と聞いて、咄嗟に頭に浮かんだのは市田柿と蜂屋柿。いずれも代表的な渋柿の品種です。恩師曰く、そんなブランド柿ではなく、市販されている地元岐阜産の渋柿を使って干し柿を拵えたのだと。

帰京して食べてみると滋味あふれる一品に仕上がっていて本当に驚きました。「見事な出来栄え」と大絶賛の家内が申すには、そもそも東京で渋柿が店頭に並ぶことはないというのです。都会では手間暇のかかる干し柿を作る人がいないからでしょう。記憶にないくらい久しぶりに(美味しい)干し柿を食べて、俄かにその作り方や効能に興味をそそられました。

これまで深く考えたことはなかったのですが、干し柿はなぜ甘柿ではなく渋柿で作るのでしょうか。甘柿は小ぶりな品種が多く干すと小さくなってしまうというのが主たる理由のようです。糖度は渋柿も甘柿もほとんど差がないのだそうです。確かに、恩師の拵えた干し柿は大きくて見栄えのするものでした。


奈良県岐阜県で盛んに栽培される富有柿は、甘柿でありながら、熟成させることで糖度を上げることに成功した品種です。明治時代になって、その声価は高まり、岐阜県産の富有柿は天皇陛下に献上されることになります。新年会で会った同級生のひとりが「岐阜にはふるさと納税したくなるような特産品がない」とこぼしていました。ブランド総研の2016年地域ブランド調査によれば、岐阜県の魅力度は47都道府県中42位・・・、確かにふるさと岐阜の評価は芳しいものではありません。市田柿能登志賀ころ柿はすでに地理的表示保護制度(GI)の対象に認証されているのに、「堂上蜂屋柿」はまだのようです。


朝廷や幕府へ献上された経緯もあって命名された「堂上蜂屋柿」(美濃加茂市蜂屋町)は、もっと全国的に認知されてもいいのではないでしょうか。恩師の干し柿に刺戟されて、試しに、干し柿の最高峰と称される「堂上蜂屋柿」を取り寄せてみることにしました。安いものでも1個500円以上はするブランド産品ですから過去に口にしたことはありません。都内ではタカシマヤで最高級品(3個で25000円)の取り扱いがあるようですが、窓口の地元JAめぐみの蜂屋支店に注文して取り寄せるのが手っ取り早そうです。

例年、販売が開始される12/1には、お歳暮需要も手伝って農協には長い行列ができるそうです。電話口に出た農協職員が熱心に地元特産品の魅力や製法をご教示下さいました。1個350グラム前後の大玉だけが「堂上蜂屋柿」と名乗ることを許され、追熟→皮むき→陰干し→天日干しという40日前後の作業工程を経て、出荷されるのだそうです。豊作と不作が隔年で訪れるという蜂屋柿、2016年は豊作だったので今年は不作の予想だとか。自宅に届いた「堂上蜂屋柿」を計量してみると80グラムもありました(写真下)。真空パックの包装を解いて賞味してみると、粉を吹いた表面とは対照的に中身は半生状態で、ドライフルーツというよりも茶事に供される上生菓子のようでした。糖度はなんと65%、ジャムに匹敵する甘さです。

冬の食卓を彩る自然の恵みにぞっこんほれ込んでしまいました。恩師の干し柿に倣って、今秋は蜂屋柿を仕入れて干し柿作りに挑戦してみるつもりです。