生誕150年展で知る「公園の父」本多静六の生涯〜その2 奇蹟の森〜

明治神宮東京オリンピックが開催される2020年に鎮座100年を迎えます。それに先立って行われた生物調査の成果を収めた公式写真集『生命の森 明治神宮』を見ると、改めて本多静六博士の未来を見通す慧眼に感服させられます。社殿を包み込む森が育まれたお蔭で、神宮のアカマツ樹上でオオタカが営巣しているのです。

NYのセントラルパーク、ロンドンのハイドパークやリージェンツパークに代表されるように、魅力溢れる都市には必ずといっていいほど素敵な公園が存在します。豊かな緑を湛えたこうした憩いの場所がなければ都市の魅力は半減しかねません。もし、都心に明治神宮と外苑がなかったとしたら、今日の表参道や青山の賑わいはなかったことでしょう。

その明治神宮の150年先の姿を見据えて、林苑造成にあたったのが本多静六博士です。本多教室講師の本郷高徳と院生の上原敬ニが、この壮大なプロジェクトに加わります。三人はカシやクスノキのような常緑広葉樹を中心とした混合林を構想します。ところが、造成がはじまると時の総理大事大隈重信が「明治神宮の森も、伊勢神宮日光東照宮のような荘厳な杉林にすべきである。明治天皇を祀る社を雑木の藪やぶにするつもりか」と異議を唱えます。


困惑した博士らは東京では杉の生育が難しいことを科学的に説明し、とうとう総理大臣を説得してしまいます。右の写真は、カシやシイなどの常緑広葉樹が造成時の主木アカマツにとって代わり、人手を介さず、森自らが世代交代を繰り返すしながら「天然林相」を形成する過程を示した林相予想図(植栽培時→50年後→100年後→150年後の4段階)です。神社にはスギという常識を捨て去るこの英断がなければ、鎮守の森がやせ細った杉が茂るみずぼらしい姿になっていたことでしょう。隣接する線路からやってくる煙害も考慮し、代々木の気候風土を緻密に分析した成果に他なりません。

全国から集められた365種・約12万本の献木は、結果、250種に減り本数は17万本に増えているそうです。なかでも、当初の予想に反して大木に成長したのがクスノキです。こうして、100年前に半分あった針葉樹は1割以下に激減、常緑広葉樹が2/3を占めるに至っています。150年後の理想の森は、博士の予想より50年早く形成されたことになります。人工林が遷移を重ね、自然の力で太古の森が都心に蘇るとは奇蹟としか言いようがありません。



生命の森 明治神宮

生命の森 明治神宮